学校に行こう!〜放課後〜




「あ〜ぁ、結局こうなるんだもんなぁ…」

 ひりひり痛む頬やら腕やら腹やらふくらはぎやら足の甲やらを順番に押さえて、ジョットはもう何度目かも数えていないため息をこぼした。そしてそこかしこから覗く包帯をひらひらと遊ばせながら、手は絶えずサインのカーブを描き続ける。
「ボス、おいたわしい………あ、これ追加ですんで」
 そんなジョットの目の前に、いかにも同情してますというわざとらしい表情でどさっと書類の束が置かれた。これで何束目だろうか。もろもろのツケが回って来たせいで、今現在ジョットの執務机は雪崩間近の警戒態勢だ。
「…なんか、嵐まで怒ってない?」
 普段より幾分か乱暴なその仕草は、貴族出身の彼にしては珍しい。爆弾やらナイフやらなかなか過激なものを扱う彼だが、そういう生活的な面では実に丁寧なのに。というわけで、一応確認はしたが、するまでもなく彼がお説教モードなのは一目瞭然だった。
 なんてったって目が据わっている。
「当ったり前です! 突然いなくなったと思ったら学校に行っただなんて! 耳を疑いましたよ!?」
「えぇ〜、驚くことか?」
「あ・た・り・ま・え・です!!」
 青筋こそ浮いていないものの、なかなかお冠のようだ。
「…本当に、そんなに驚くことじゃないと思うけどなぁ。俺に関しては驚かせたかもしれないけど、少なくとも骸は違うだろ」
「俺はそこに1番胃を痛めたんですけど!!」
 嵐には十中八九守護者全員の賛同を得られる自信があった。骸本人ですらそうだろう。まあ雲は胃を痛めるどころか嬉々として観察していたわけだが。
「でも、骸が学校に行くのは普通のことだろ、本来は」
「………あくまで年齢的な話だけでしょう」
「そうかなぁ。そりゃ、あいつ青春とか掛け離れてそうだし、いや実際掛け離れてたけどさ、あれはあれで骸なりに子供らしい姿だったと思うよ」
「……」
 太陽の下友達と駆け回る骸なんて想像もつかないが、骸が稀に、ごく稀に年相応の表情を浮かべることがあるのは嵐も知っている。もちろんジョットの傍にいる時だけで、しかも元からポーカーフェイスがうまいあげく、普段は幻覚という仮面で隠しているからわかりにくいことこの上ないけれど。
「…あいつが子供らしくなるのは、あなたといる時だけですよ」
「何だよ、俺がガキみたいだから骸も釣られてってことか?」
「違いますって。子供ってのは授業参観になると途端に一生懸命答えようとしたり、いい子でいようとしたり、なんとかして親の気を引こうとしたり、必要以上に頑張って失敗したり、いろいろ忙しいんですよ。でもいつもの授業ではそんなこともない」
「…つまり?」
「さあ? どうぞご自分でお考えになって下さい」
「えぇ〜、ずっるぅ! ていうか、骸みたいなこと言うなよ」
「あいつと一緒にしないで下さいよ。…それはそうと、その張本人と雲はどこに? 帰っていないようですが」
 結局答える気はないようだ。仕方なくジョットは少し頬を膨らませつつも口を開く。
「問題児2人なら襲って来た男のファミリーを突き止めて乗り込んでるよ。こちらとしてもさすがに命を狙われて黙っているわけにはいかないし、かと言って骸をひとりで行かせたらあっと言う間に血の海決定だからな。それに何より、あのまま帰って来られたらまた屋敷が半壊するのが目に見えてるだろ? 2人一緒なら、お互いをぶっ飛ばすのに夢中でそれどころじゃないだろうし、どうせ他人の家だし、大丈夫さ」
 けろっと言い放たれた事実に、嵐の顔はサッと青ざめた。
 そりゃあ機嫌の悪い骸を単体で行かせるよりはマシだけれど。雲を弱者(失礼だが、大半の人間は彼からしたらそうなる)の群れに派遣するよりマシではあるのだけれど。でもなんと言うか、その発想がとても黒い。
「………守護者を集めてただちに迎えに行きます」
「あ、じゃあ俺も行ーーー」

「ダ・メ・で・す!!」






















「ちっ」
 舌打ちをこぼしつつ、骸は横っ跳びでトンファーを避けた。しかしすぐにもう片方のトンファーが水平に薙ぎ払われる。

「ぐべっ!!??」

 しかし顔面にもろにトンファーをめり込ませてぶっ飛んだのは、どこの誰とも知らぬ黒服の男。いや、誰かは知らないがどこのかはわかる。絶えず破壊され続けているこの屋敷のファミリーの一員だった。
 ちなみにこうして骸の盾に使われたのはこれで12人目である。全員もれなく顔面陥没のそっくりさんになって床を這っている図は、それだけでも十二分に冷涼感を得られた。そんな光景を作った張本人達は全く怖がりなどしないけれど。怖がったらそれはそれで怖いけれど。
「散々殺そうとしたくせに結局他力本願ってどうなの?」
 張本人一号の雲が呆れたように呟く。両手のトンファーは既に真っ赤で、なんかこう…滴っていた。
「死んでようが生きてようが盾は盾です。単なる盾に他力も何もありません」
 答える張本人二号、もとい骸は偽りの姿で長槍をくるりと回し、血糊を軽く払う。もちろん互いに互いの血ではないところに注意したい。
「そういうの詭弁って言うんだけど、知ってた? ああ良かったね、今日はまたひとつ勉強できたじゃない小学生」
「咬み殺すなんてわけのわからない言葉を使うあなたに教わることなんてありませんーーーよっ」

 ドン ズガンっ 
 ドドン

 キン ガキンッ
 キキン

 会話中という、普通からしたら隙になる場面で放たれた銃弾はことごとくトンファーと槍に弾かれ、そして弾かれた弾は当然のように二人の狙い通り互いへと飛んでいきーーー

 キンっ ガっ ギキンッ
 キンっ ガっ ギキンッ

 再び弾かれた。
「あ、あいつら化け物だ…!」
「ひぃ…!!」
 とんでもない光景に戦意を完全に喪失し半ベソ状態の男たち(単に被害者とも言う)は、次々に銃を取り落とした。
 しかし、
「誰が撃つのを止めていいと言いました? ほら、とっととあの男を撃ちなさい! 本当に使えないゴミどもですね! 八つ裂きにされたくなかったらきちんと狙いなさい役立たずが!」

「ひぃぃぃぃぃぃ!!」

「やっぱり他力本願じゃない」

「だ・ま・れ!!」


 結局その日、守護者全員が一同に会するという奇跡のもと、ひとつのファミリーが壊滅した。
 余談だが、雲と霧以外の守護者がやって来た時、息も絶え絶えのファミリー達は救世主の降臨に両手を組んで祈りを捧げたという…。






















「も、もうやめてあげてくださいぃぃぃぃぃ!」
「ちょっと雷! その手は何のつもりですっ? 僕に触れたらブチ殺しますよ!」
「ひぃぃぃぃぃぃい!!」
「まあまあ骸! ほら、その物騒なモンしまって! 雲もほらーーー」
「何。君も咬み殺されたいの?」
「いや、そうじゃなくてだな…」
「お前らどっちもやめろって! 喧嘩両成敗って言葉知ってるか!?」

「僕に指図しないでくれる」
「僕に指図しないでください!」

「極限気が合っているな、お前たち!」
「はぁ? 気でも触れましたか?」
「ホントだよ。どこ見て言ってるの」
「そういうところが…もごふっ」
「火に油注がないでくださいよ!!」
「そうだっての! 思ってても言わない方がいいこともあるんだよ芝生!」
「へぇ、あなたまで気が触れたんですかねぇ、嵐」
「爆弾の余波で脳細胞減り過ぎたんじゃない?」
「お、お前らなぁっ…もふっ!?」
「嵐もやめとけって! けんかりょーせーばいだって!」

「僕に指図しないでくれる」
「僕に指図しないでください!」
「もごっ、俺に指図していいのはボスだけだ!」

「うむ! 仲が良いのは良いことだ!!」

「「「黙れ」」」




「もう帰りたいです…」
「ははは、そうだな〜」
























 その頃、執務室。

「…ひとりきり〜でサインサイン〜ふんふふ〜ん…」

 目を潤ませたボスの虚しい歌が響いていた。









『学校に行こう!』シリーズこれにて完結です!
こんな馬鹿話に長々とお付き合い下さり、本当にありがとうございました〜!!