学校に行こう!〜4時間目〜




(か、描けない…)

 骸が鉛筆を握ったまま固まること数十分。未だに画用紙は眩しいくらい真っ白だった。
「……」
 立てた鉛筆をジョットの方へ掲げた姿勢で、視線をせわしなく床やら椅子やらに迷わせる。
 しかし被写体を見ずしてデッサンなど出来るはずもなく、勇気を出してちらりとジョットを見遣った。

「……っ」
 
 しかし一瞬でその視線は黒ずんだ木の床へと戻された。
(なんでそんな目で見てるんですか!!)
 瞬間的に骸の記憶に焼き付いたのは、慈愛に満ちた眼差しを骸に惜し気もなく投げかけるジョットの姿だった。ずっと同じ姿勢を保っているというのに、疲れも見せず飽きも見せず、そこだけ時間の流れがゆっくりになっているようで、そこにあらゆる光が集っているようでーーー。
(か、描けるわけないでしょう…!)
 画才だとかそんなものはもはや関係ない。だって、見ることすらできないのだから。
「……はぁ…」




 そんな骸をじーっと見つめながら、ジョットは笑みの形を勝手に作ろうとする表情筋を必死で抑えていた。
(あー、どうしよう…。絶対みんなに親馬鹿って言われるよ)
 なんだかんだで絵を描こうとしている骸が可愛い。なのに描けない骸が可愛い。目を合わせてくれないのは少し寂しいけれど、たまにこちらを見てはすぐにそっぽを向くのがまた可愛い。それだけに、見た目が自分を小さくしたような幻なのは残念だった。きっと本当の骸は頬を真っ赤に染めて戸惑っているだろうに。
 頬を染めた骸は特別可愛いのに。
(見たかったなぁ…。しかし、それにしてもーーー)
 こうしていると、骸はごく普通の子供のようだった。人見知りが激しくて、ひねくれてて、素直になれなくて、でもたまに愛らしく笑ってくれて、とにかく手のかかる息子。そんなことを本人に言ったら大災害になるから言わないけれど。
(ふふっ…おっと、動いちゃ駄目なんだった)
 さて、いつになったら描き終わるのやら。


 きーんこーんかーんこーん…

 きーんこーんかーんこーん…

 鐘が鳴っても、二人は動かなかった。


















下手なわけではなさそうな骸さん。
でも描けなきゃ意味がありません。