学校に行こう!〜3時間目〜
「………はい、3時間目は図工です…」
教室中鼻をすする音が響く中、随分と低い声で教師が開始の合図を告げる。早く終われという願いが隠しきれてない。骸は最初からそうだったので言わずもがなだが、発案者のジョットですら段々笑顔が崩れてきた。
みんなの思いはひとつなのに、なぜか誰も口には出せず…。
「みんな隣の席のお友達と向き合って、お互いの顔を描きまーーー」
「先生」
びくり、と先生を始めとする生徒達が一斉に怯えた視線を集中させた。いろんな元凶である、きっちり垂直に手を挙げた骸へ。
「な、何かしら、ムクロくん?」
その目は暗に『黙って描いてりゃいいのよっ!!』と語っていた。それでも声には出さなかったことに、ジョットは盛大な拍手を送りたいくらいだ。
「僕は誰にも描かれたくありません」
(ああ〜…また空気が痛い)
というか、どうせ幻覚だから骸自身を描くわけではないのに。
「…どっ、どうしてなのか、先生に教えてくれるかしらっ?」
諸々の事情も何も知らない教師は上擦ったあげくに語尾が震えた声で尋ねたが、それでもよく堪えた方だ。生徒達とジョットの尊敬の眼差しがそれを優に物語っている。しかし、
「あなたに言う必要はありませんね」
その一言で女性教師の気合いを入れて整えていた眉が思いきり引き攣ったけれど。その気持ちはわかるが、抑えてくれないと後が大変なのはみんななんとなくわかっていた。
『お願いだから抑えて先生!』というメッセージを込めて無言の視線を送る。その中には当たり前のようにジョットも入っていた。
「え、えぇ、そう、そうよね。そうに決まってるわよねっ」
あははうふふ、と奇妙に笑って、なんとか教師は耐え抜いた。みんな脳内で拍手喝采だ。
「じゃ、じゃあムクロくんには好きな物を描いてもらうとして、あなたはムクロくんの代わりに…そうね、ジョット様をーーー」
ムクロを描くはずだった隣席の少年は途端に顔を輝かせたが、
「はあ?」
次の瞬間、この世の終わりのような表情になった。
「むむむ、骸っ!!」
咎めるジョットを軽やかに無視して、骸は教師と哀れな少年に確実に寿命が縮むと思われる視線を突き刺す。ギラリだとかギロリだとか、そんなんじゃない。擬音なんかじゃ表せない無音。むしろ周囲の音すら握り潰すようなものだった。
それをまともに受けた教師はサーっと血の気をなくし、至近距離で受けた少年なんぞはほとんど失禁寸前だ。
「はっ、あなたごときがジョットを描くと? 貴族のお坊ちゃまはよほど絵の才に自信をお持ちのようですねぇ。さぞや素晴らしいデッサン力なんでしょうか。レオナルド・ダ・ヴィンチくらいは期待していいですよねぇ。これは愉しみだ。ほら、描くならとっとと描きなさい。出来次第で絵は真っ赤に染まるかもしれませんけーーーもごっ」
「ハイっ、そこまでぇぇぇぇ!!」
骸の口を手で強引に塞いで、ジョットは一人の少年を救った。まあ、元々こうなったのはジョットのせいもあるのだが。
「もっ、もがごもごもごっ!!」
「ハイハイ、武器出さない武器出さない! 持つのは鉛筆!」
「もごーっ! もがふごごっ!」
「ハイハイ、骸以外に描かせたりしないから!」
「もっ!? …も、もごご…もふ…」
「ハイハイ、ほんとほんと! それならいいだろ?」
「…ごも…ももふ…」
「ハイハイ、照れない照れない!」
「もっ、ももふごんももふごふっ!」
「えーと、『てっ、照れてなんかないですっ!』かな?」
「ふひひがふがっ!」
「あ、『口に出すなっ!』だろ!」
「もふごーっ!」
「『だからーっ!』だな。っていうか、お前顔あっついぞ。ホントに照れてるのか?」
「もっ、もふごごふご!!」
「『だっ、黙りなさい!!』だな」
「…ももふも〜…」
「『…離して〜…』だな」
「はーい、みんな今のうちに描きましょうね〜!!!!」
「「「「はーい!!!!」」」」
やけにテンションの高い声がこだました。
骸さんは黒曜3人の描いた絵以外認めません・描かせません。
図工は2時間続きが多かった記憶があるので、4時間目も図工になります。