酒は飲んだら呑まれます。




「はあ? 今、なんて言いました?」
 ジョットの口から飛び出た単語に、骸は思わず裏返った声で問い返した。

「だからぁ、利き酒大会!!」

「………おやすみなさい」
 頭痛めいたものを覚えて、骸はこてんとベッドに身体を戻した。
 大体今何時だと思っているのだろうか。お天道様はとっくのとうに沈み、それどころかお月様だって傾きつつある。さすがにまだ空は白ずんでいないものの、もう数時間したら鳥達が目覚める頃だ。当然ながら骸は寝ていたし、今夜は特に悪夢を見ることもなく気持ち良く過ごせていたというのに。
「いつもながらノリ悪いなぁ。起きろよ〜、明日休みだろ?」
「未成年をこんな時間に叩き起こしたあげくに酒を飲ませる大人がどこにいますか!」
「ここにいるだろ。あと雨と〜、晴と〜、嵐は潰れてるけど、一応嵐も〜」
 妙に間延びした声でたわけた大人達の名を連ねるジョットに違和感を感じて、骸はくん、と鼻を利かせた。
「……酒臭い。酔ってるでしょう!」
「ちょっとぽわぽわしてるかな。でもまだまだ飲めますよ〜」
 変に丁寧語を使う様はまさしく酔っ払いのそれで、骸は完全なる頭痛を覚えた。いろんな意味でイタイ。
「もう少しボスとして危機感を持って下さいよ! 大体、さっきの言い方じゃ雨も晴も嵐までも飲んでるんでしょう!? 今襲われたらどうするんですか!」
「そんな目くじら立てるなよ〜。そうなったらお前が護ってくれるだろ?」
「その僕にまで飲ませようとしてるのは誰ですか!」
「んー、俺かな〜?」

 ひょいっ

 軽々という言葉がぴったりの動きで、当然のようにジョットは骸を抱き抱えた。
「ちょ、ちょっと何すんですか! 下ろしなさい!」
 じたばたと手足をがむしゃらに動かしても、どうしてかこの酔っ払いは器用に骸をいなしてがっちりとホールドした。そしてそのままのしのし歩き出す。骸の部屋を出て、おそらく、中庭へと向かって。
「下ろしなさいってば! ジョット! この酔っ払いが!!」
「はいはい喚かない喚かない。それよりいいのか? そろそろ中庭の連中からこっち見えちゃうぞ。いつもみたく大人にならなくていいのかな〜?」

(こ、こんの……!)

 白々しい物言いに青筋を立てつつ、確かに中庭に面した窓が近付いているので幻覚を使わざるを得ない。そうして冷涼な青年の姿をとってから、はたと気付いた。

 今の図の方が最悪だ。

「ますます下ろしなさいっ!」
「だって骸、抱き心地いいし、軽いし、たまにはいいだろ?」
「良くない! あ、ああ〜、あ〜もうっ」
 窓の外で何やら酒ビンを並べているのが見えて、つまりはあちらからもこちらが見えてしまうので、骸は諦めてジョットと並んで歩いている幻覚を作り出した。少しの差だが、幻覚の範囲が広がったのでそれに比例して疲労も倍増だ。
「隠さなくてもいいのに……」
 ちょっと残念そうなジョットに、骸はがなる気力すら削がれてしまった。

(……最悪です……)
















 しかし上には上が、最悪の下には下があることを知ったのは、そのすぐ後だった。

「…………」

 開いた口が塞がらないというのを身体で示して、骸は遠くを見る目で固まった。
 まともな人間から語ると、雨は多少酔っているようだが呂律が回らなくなるほどでもなく、きびきびとグラスを並べていた。酔った部下にもわかりやすく的確な指示を与えているあたり、この場では1番まともだろう。まあ、やっていることは結局のところ利き酒の準備なのだが。
 次にまあまあまともと言えるのは晴だろうか。引き締まった上半身を惜し気なく曝して極限だ何だと叫んでいるが、とりあえずいつもとそう変わらない。逆に言うなら、普段から酔っているようなものとも言える。
 そしてここらから怪しくなる。普段、守護者達(雲と霧の2名を除く)を統率し、ボスの右腕として組織の根幹をなしているはずの嵐だ。簡単に言うなら、千鳥足と徒競走を足して2で割ったような危うさで机の間をせかせか動いているのだった。たくさんのランプに照らされた頬は暗がりの中でもはっきりわかるほど真っ赤で、“青年”の前に“美”を付けられるか付けられないかの境界線を行ったり来たりしている。それでもなんとか準備を手伝っているのは、右腕としての最後の誇りかもしれない。真面目な彼のことだ、飲む気などなかったろうに、ボスに勧められて断り切れずに飲んでしまったのだろう。骸は特別嵐に対して思い入れも何もないけれど、なんとなくいたたまれなかった。
 そして見るも無残なのが雷だ。中庭の中央、彼のための舞台とでもいうようにぽっかりと丸く空間が空けられていて、そこでくるくると謎の踊りを披露している。顔は全く赤くなっていないのがまた悲惨で、素面で踊り狂っているようにしか見えない。ちなみに、簡易舞台の周りでは、雷の部下達が囃し立てるように手を叩いたり口笛を吹いたりしていた。こちらはほろ酔い程度なのがまた哀れだった。
 雲がこの場にいないことだけが唯一の救いか。

「おーい、骸連れて来たから始めよう〜!」

 大声で叫んで、ジョットは抱えている骸を上下に揺さぶった。本人としては手を振る代わりらしいが、物凄く迷惑極まりない。幻覚で手を振らせながら、骸の胸は虚しさでいっぱいだった。

(この馬鹿どもの中に僕も加われと……!)





















「ん〜……ジン!」

 おお〜!

 ぐいっ、とグラスを呷って酒の種類を叫んだ雨に、周囲の部下達が野太い歓声を上げた。どうやら当たりらしい。
「うわー、やっぱり強いなぁ雨!」
「……外しまくって飲みまくっても倒れないあなたも、なかなかだと思いますよ…」
 うんざりした様子の骸の声は、ボスを迎える声援に掻き消された。
「次はジョットな!」
「よっし、今度こそ!」
 雨と交代で机に向かうジョットを冷めた目で見送って、骸は深いため息をついた。
 ちなみにルールは簡単で、部下達がランダムに並べたグラスの中から1杯を選んで飲み干し、種類を当て、当たりなら交代、外れならグラス3杯を飲んで交代だ。そうして先に潰れた方の負け。
 最初から出来上がっていた嵐は運悪く初っ端からテキーラを引いたあげくに外れ、3杯目に行き着く間もなくベッドへ直行した。とんでもない醜態を曝す前に脱落出来て良かったと思う。
 踊り狂っていた未成年の雷は、グラスではなくビンからぐびぐび飲んで妙に陽気に大笑いした後ぱたりと倒れた。こちらはもう醜態を曝しまくっていたので手遅れだが、ボンゴレの中では年少に入るので、可愛がられてからかわれて終わりだろう。
 割と粘っていた晴は、根本的に味音痴なのか案外酔っていたのか、日本酒を水と言って譲らず、何杯飲んでも大丈夫なら水だと証明できると飲みまくったあげく、『極限に水だぁぁぁ!!』と叫んで散った。晴らしいと言えばらしいかもしれない。
 そしてジョットはと言えば、普段酒なんて付き合いくらいでしか飲まないので、当然種類もほとんど知らなかった。それでいて果敢に挑戦するものだから、外しては3杯飲んでまた外しては3杯飲んでを繰り返し、もう数えるのも馬鹿馬鹿しくて何杯目になるのかわからない。しかし相変わらずぽわぽわとほろ酔いで、足取りもしっかりしたものだ。どうやらかなりのザルらしい。

「む〜………ウォッカ!」

 ぶはっはっは!!

 歓声のかわりに楽しげな笑い声が響いた。期待を裏切らないと言うか何と言うか、また外れらしい。
「なぁ、さっきからコレよく引くけど、なんなの? 全然知らない味なんだけど」
 ぽちゃぽちゃと2杯目のグラスを振って、ジョットはむくれた。
「降参ですかい、ボス?」
 横から料理長が声をかければ、ジョットはむきになって首を振った。
「いーや、まだまだっ! お〜い骸〜! 出番出番!」
 おいでおいでと手を振るジョットは、間違いなく骸の頭痛のタネだった。ボスでありやたらと場を盛り上げてくれるジョットが動くと、何故だか周りの連中もノッてきてしまうのだ。
「おぉ〜! ついに出るか最終兵器!」
「一人だけ素面だなんて野暮だぜ霧さんよ」
「ほらほら、ボスがご指名ですぜ」
「え、骸飲めんのか? ていうか、未成ね――あー、なんでもない」
「骸〜早く〜!」
 口々に勝手なことを言う輩はどんどん増えていき、結局最後にはその場にいる全員がぴったり合わせた拍手で骸を呼び出した。ほとんどの連中は、骸が身体年齢的には未成年まっただ中だということを知らないし、言うわけにもいかない。
(い、嫌な展開ですね……)
 骸は雰囲気に呑まれやすいのを自覚していた。もちろん敵地で緊張するとかそういうことではなく、こういった妙に温かい一体感というか、単なる馬鹿騒ぎというか、とにかく慣れないことには弱かった。少し考えれば逃れる手段はいくらでもあるのに、どうしてか頭が働かなくなってしまうのだ。

「「「「霧! 霧!」」」」
「「骸! 骸!」」

 調子に乗った彼らを止める術なんてなくて、全員が全員期待に満ちた眼差しで見てくるものだから、骸はもう困惑を突っ切ってどうとでもなれという気分になっていた。
「……仕方ありません」
 重い腰を上げた骸に、周囲の歓声が最高潮に達した。

 うおぉぉぉぉぉ!!

 何がそんなに楽しいのか、皆雄叫びをあげて骸のために道を空けた。その先ではジョットが嬉しそうにぶんぶん手を振り、だいぶ酔いつつある雨も上機嫌に笑っていた。
「そうこなくっちゃな! 骸、これ飲んでみてよ!」
 骸が子供だということもすっかり忘れて、ジョットは先程自分が外したグラスを差し出した。
「…………」
 骸はもうため息をつくのすら疲れるとばかりに肩を落として、渋々受け取った。
「そ〜れ、イッキ! イッキ!」
「「「「「イッキ! イッキ! イッキ!」」」」」
 悪ノリした大人達が更に囃し立てる。こんなんがマフィアでいいのか。
「……急性アルコール中毒になったら全員道連れにしてやりますからね」
 物騒なことを言い捨てて、骸はぐぃっとグラスを呷った。

(――っ!!)

 途端鼻を抜ける芋の匂い。いや、臭いと書くべきかもしれないそれは、幸か不幸か前世の記憶の中にあるものだった。

「いっ、芋焼酎……」

 うおおぉぉぉぉぉ!!!

「え、当たりなの? 骸すごいな〜!」
 口々に賞賛する大歓声に、ジョットは感心したように叫んだ。その一方で、確認する必要もないくらいわかりやすい味に、骸はケホケホと噎せていた。どうしてこれをウォッカと間違えるのか。
 というか、それ以前に。
「コレあなたが持ち込んだでしょう、雨!」
「……あ、バレた?」
 ぎろりと睨みつけても、雨は飄々としたものだ。酔いも回ってなんだかにこにこしている。
「酒って土産の定番だろ? 皆普通の酒には飽きてるだろうなと思ってさ〜」
「だからって芋焼酎……しかもかなりキツイですよコレ!」
「何言ってんだよ。俺なんてもうそれ10杯は飲んでるんだけど」
 外す度に飲んでいるジョットがイイ笑顔でぽんぽん骸の肩を叩く。
「ザルのあなたと一緒にしないで下さい!」
 振り払う骸の顔は早くもほんのり紅色に染まりつつあった。元々体質的にそこまで強くない上、身体は小さいのだ。
「え、俺ザル? ザルなの? まあいーや、次これね」
「はぁ!?」
 当然のように次のグラスを渡され、骸は正気かと言いたげな視線を寄越す。
「1杯も2杯も変わらないって。これも俺全然わかんなくてさ〜」
「あ、それは俺もわからなかったな」
「……」
 なんだかもう引き下がれなくて、骸は仕方なくグラスに口付けて出来るだけ臭いを嗅がないように一気に飲んだ。

「……っ……キ、キルシュヴァッサー……!」

 搾り出すように言って、骸は盛大に咳き込んだ。

 おぉぉぉぉぉぉ!!

 またも上がる歓声。当たりだった。
「ホントすごいな骸!」
「全然知らない名前だな。きるすばさら?」
「キルシュヴァッサー! 主に菓子に使う酒ですよっ。ちょっと、水……! 水下さい!」
 舌と鼻とを直撃した刺激に悶えて、骸は水を求めながら手をもごもご動かした。
 確かこの酒は、以前骸がチョコレート菓子を作るのに使ったものだ。そうそう使うものでもないので、ここで使い切る気だったのかもしれない。
「はい、これ」
 す、とジョットが差し出したビンを珍しく行儀悪くラッパ飲みして、骸の顔色が真っ青になった。
「ぅっ……っ、んぐ……っげほ……ごほっ!」
 なんとか吹き出すことだけは堪えて、口に入った分は無理矢理飲み込んだ。
「にっ、日本酒じゃないですか!!」
「え〜? 晴いわく、極限に水だって」
「その晴はそこに大の字で転がってるれしょうが!」
 びしぃっ、と大いびきで爆睡している晴を指して、骸は顔を真っ赤にしながら肩で息をした。だんだん呂律があやしくなってきている。
「お、酔ってくるの早いな〜!」
「当たり前れすっ! ああもう、疲れる……!」
「疲れた時にはコレだぜ〜!」
 今度は雨がグラスを差し出す。
「……飲めばいいんれしょう、飲めばぁ!」
 自棄になりつつ、ふらつく身体をなんとか垂直に保ってグラスを呷る。

「…………ま、マムシ、ざ、け…………」

 おおぉぉぉぉぉぉ……ぉぉおお?

 大歓声は途中で調子を変えた。

「え、骸!?」
「わ、大丈夫か!?」

 骸の頭の中で蛇がぐるぐる渦を巻いて、意識はぼわんぼわんした世界に沈み込んだ。



















「……ん、んむぅ……」

「あ、起きた?」
 気持ちのいいまどろみの中に片足を突っ込んだまま目を開ければ、視界いっぱいに影が落ちて額には温かな感触があった。
「……ジョット……」
 額を優しく撫でるジョットの熱い手の平が気持ち良くて、骸は自身の手を添えて擦り寄った。猫の子のような甘えた仕種は幼くて、とてもじゃないが普段の骸からは掛け離れていた。
「め、珍しいな。あー、まだ酔ってるのか」
「酔ってなんかいません……」
 蕩けた顔して何を言ってるんだか、と呆れるジョット自身は、骸の介抱をしているうちにすっかり酔いもさめていた。骸が倒れてジョットも席を外したので利き酒大会は閉幕し、中庭ではまだまともに動ける猛者達が片付けをしてくれている。骸の部屋まではその音も聞こえず、静かなものだ。
「酔ってるやつほどそう言うんだよ。ほら、水」
 今度こそちゃんと水を差し出せば、骸は起き上がるのも億劫なようでいやいやと首を振った。潤んだ瞳と相まって、これはこれでなんとも可愛らしいものがある。
「しょうがないなぁ……」
 そんな骸に強く言うことも出来ず、甘ったるい声で呟いて、ジョットは骸を起こすべくベッドと骸の身体の隙間に手を入れた。
「クフフっ、くすぐったいですよぅ……」
 途端、骸は悩まし気に身をよじった。
「――っ!」
 か、可愛いけれども。なんかやたらと可愛いけれども!
(ちょ、調子狂うな…)
 困ったように額を押さえつつ、ジョットは盛大にため息をついた。
「ねぇジョット」
「な、何?」
 突然声をかけられて、ジョットはびくりと声を上擦らせた。視線を骸に戻せば、ベッドに転がったままの骸がにんまりと悪戯っぽい笑顔を浮かべていた。その瞳は酔いのためかとろんとして、妙に艶めかしい。
「マムシ酒の作り方って知ってます?」

 がくっ

 全身から力が抜けて、ジョットはまたも額を押さえた。
(こ、ここでマムシの話……?)
 なんとも色気のない。いや、色気なんてなくていいけども。
「ねえ、聞いてますか?」
「はいはい、聞いてるよ。俺はマムシ酒なんて飲んだこともなかったから、作り方も知らない」
「クフフ、あのねぇ――」

(え、語るの!?)

 ジョットの心中でのツッコミもなんのその、骸は紅潮した色っぽい顔で何故だか得意気にマムシ酒について語り出した。
「マムシを捕獲したら、一ヶ月くらい絶食させるんですよ。下半分くらいを水に漬けて、老廃物を出させるんです。そうして綺麗になったマムシを焼酎に漬けると、マムシは酔って焼酎に沈み、晴れて溺死。そのまま漬け込めばマムシ酒の出来上がり」
「そ、そう……」
 何と言っていいのかわからず、ジョットは曖昧に返す。あまり骸の口から聞きたい話ではなかった。
「クフフフッ、これがなかなかつらいんですよ? 瓶の中から見る人間の顔ったら、まだかなまだかなぁ、なんて期待に満ちていてね。こっちは死ぬのをただ待つ身だと言うのに。まあ散り際には酔って何もわからなくなっているから、死に方としてはまだマシな方ですが」
「へ、へぇ……あはっ、あははは……」
 笑うしかなくて、ジョットは渇いた笑い声を上げた。とりあえずマムシ酒は一生飲めなくなりそうだ。骸はジョットの反応が不満だったらしく、ぷっくりと頬に空気をためた。
「ひどいっ、疑ってるでしょう! 本当なんですからね!」
 ぷりぷりという言葉が相応しい具合に怒って、骸はジョットの手を引き寄せて胸に抱いた。
「わ、む、骸……!」
「怖くて、寂しかったんですよ……」
 妙な具合に絡み付いてくる骸を無下にも出来ず、ジョットは骸を抱きしめて出来るだけ優しく肩を叩いてやった。
「……ん……」
 途端、骸は嬉しそうに目を細めた。これが猫なら喉をごろごろいわせていそうな様子に、ジョットは複雑そうな表情で盛大に嘆息した。
「なあ骸。あんだけ酒の種類知ってるってことはさ、たまに飲んでたりしたの?」
「……昔は、たまに。でも最近はないです。酔いたくなることもなくなりましたから」
「……そっか。じゃあ、もう飲むなよ?」
「何故です?」
「……え〜……あ〜…………危険だから……」
「は?」
「あ、い、いや、そうじゃなくて! え、えーっと…そうっ、子供が酒飲むと背が伸びなくなるって嵐の叔父さんの妹の息子さんの友達が言ってたよ!」
 我ながら何だそりゃと言いたくなる理由だったが、酔った骸は目の色を変えて慌てふためいた。
「それを早く言いなさいそれをっ! ど、どうしましょう、あなたより背が小さいままだったら……僕……!」

(そこまで慌てられるとさすがに傷つくんだけど!)

「ま、まあまあ。ほら、寝る子は育つって言うから、もう寝なさい。はい、水飲んで」
 再度コップを渡せば、骸は素直に起き上がり、急いで飲み干してまたぱたりとベッドに寝転び直す。
「ははっ。おやすみ、骸」
 首元までしっかりと布団を被せてやったけれど、骸はすぐに肩まではだけさせてジョットの腕をとった。
「……傍にいてくれないんですか?」
 ジョットの手に頬を擦り寄せる様はどうにも色っぽくて、思わずどきりとさせた。
「……とーさん心配だよ……」
 なんというか、いろいろと。将来的にも、いろいろと。
「クフっ、クフフっ、とーさん、ですって。クフっ……フフフ、……フフ……フ…………」
 骸はくすくす笑ったまま、ゆっくりと寝息を立て始めた。

 すー……

 すー……

「……おやすみ」
 あどけない寝顔に頬を緩めて、ジョットは骸の額に唇を寄せた。
























「うぅ……っ!」

 ずきずき痛む頭を押さえて、骸はふらふらしながらも執務室へ向かっていた。
「あれくらいで二日酔いだなんて……! これだから子供の身体は……!」
 悪態をついても気は紛れず、むしろ更なる頭痛が骸を苛んだ。当然機嫌はみるみる下降して、足音も気付いたらカツカツからガツガツに変わっていた。
 しかし骸だけがそうかと言えばそうでもなく、道行く人の多くが頭を押さえ、すれ違いざまにこちらに軽く会釈をした後は必ずと言っていいくらい眉を寄せて苦悶の表情をしていた。頭を振るとつらいのは皆同じらしい。

 ガツガツガツガツガツっ

 ようやく目的の場所に着いた。
「入りますよジョット!」
 イライラをそのまま表すようにドアを勢い良く開け放つ。

 バターン!!

「うるっさいぞ骸! もっと静かに出来ないのか!」
「嵐もなー……」
「あぁ!? てめぇはいつまでも居座ってんじゃねぇ、雨!」
「お願いだから大声出さないで下さいぃ……」
「てめぇもてめぇだ雷! 散々愉快に踊り狂って次の日はサボリか!」
「お前も極限に面白かったがな!」
「黙れ芝生頭! 何でボスの部屋で腕立て伏せなんてしてんだ! 見てるこっちが頭痛くなるからよそでやれ!」

 イラッ

「…………うるさい」
 嵐の大声はずっきんずっきん頭に響いて、骸の苛立ちは急上昇した。そもそもジョットの部屋にこんなに人がいること自体気に食わない。
 ちゃき、といつもの三叉槍を取り出せば、皆同時にこちらを振り向く。揃いも揃って二日酔いらしく、眉間の皺は深い。雷の場合は別の意味もあったが。

「屋敷の中で武器出すなって何回言ったらわかるんだ馬鹿!」
「やるってんなら退けないのなー」
「……ひ、退いていいですか、俺……」
「極限に勝負だ!!」

 イライラッ

「後悔しても知りませんからね」
 そうして骸の苛立ちは頂点に達し、不穏な言葉とともに三叉槍を構えた。

「上等だ!!」
「手加減しねーぜ?」
「……結局いつも巻き込まれるんですよね……これって貧乏くじですよね……」
「極限!!」

 結局全員が全員構えをとり、戦闘態勢になった。

「行きますよっ!!」

 そして骸の声を合図に皆一斉に動き出す。

「行くぞ!!」
「行くぜ!!」
「ひぃぃぃぃぃぃ……!!」
「おぉぉぉぉぉぉ!!」
















「ふー、二日酔いにはカモミールティーが効くんだったかな……」
 ただ一人、体質的に二日酔いと縁のなかったジョット(一応部屋の主)は、無残にちぎれ飛ぶクッションやら本やらから目を背けてそっと立ち上がった。
 昨日のしおらしい骸もいいけれど、やはりこっちの方が骸らしい。

 とはいえ――とはいえ!


「お前らこれ飲んでちょっと落ち着け!!」





























そんなわけで、利き酒大会でした。
昔『ウ◯ナリ』で利き酒やってて、それを突然思い出したのが事の発端です。酒飲めないくせに無謀なことを…!みたいなね。わかってはいましたが書き始めたら何故か止まらず、気付いたらこんな長さに(笑)
書いておいてナンですが、未成年の飲酒は禁止だぜ☆