11.




「――ねえ、」
 記憶の奥深くにしばし意識を潜らせていた白蘭は、目を覚ましたように透明な視線を綱吉に向けた。
「知ってるかい? 骸君となんの利害も絡まない関係を築くのは、実はとても難しいことなんだよ」
「え?」
 黙り込んだと思ったら今度は妙な話を持ち出され、綱吉はきょとんと目を丸めた。白蘭はその反応だけで得心したようで、少し苦みのある笑みを見せる。
「やっぱり知らないみたいだね。まあ、君にはあんまり関わりのないことだし、仕方ないか」
「……どういう意味だよ、それ」
 薄い寂漠感が込み上げて、綱吉の語尾は硬い。けれど、それに気付いた白蘭は得意になることもなく、ハハ、と奇妙に乾いた笑いを漏らした。
「僕はね、君や髑髏ちゃんたちとは違って、骸君の無償の愛を得ることは出来ないんだよ」
「……?」綱吉は眉をしかめ、首をひねる。
「あのさ……、さっきから全然意味がわからないよ、白蘭」
 前に進まない会話はじれったく、綱吉は先を促すように白蘭を見つめた。綱吉が知りたいのは、白蘭が本当に骸の味方であるかどうかだ。今大事なのはその一点であり、それがわからなければ白蘭をどう扱っていいのか判断が出来ない。
「だからさぁ……、僕が骸君にとって有益な人間だから、骸君は僕と仲良くしてくれてるってこと。友情がご褒美のギブアンドテイク――単純な話さ」
 笑みを濁して告げられた言葉は本題に近く遠く、ますます綱吉を混乱させる。結局何が言いたいんだ、と綱吉としてはいっそのこと詰め寄ってしまいたいくらいだ。けれど、それをするのはどうにもためらわれた。白蘭の声はどんどんと小さくなっていたのだ。自信がなく、弱々しさすら感じさせる。しょんぼりしていると言えばわかりやすいかもしれない。綱吉には白蘭という人物が心底わからなかった。自信家で、その自信に見合った力もあったはず。だからこそ、不安だとかそういった類の感覚とは無縁な人間なのだと思っていた。
「……友達って、そういうもんじゃないだろ。もっと、なんていうか……、うまく言えないけど」
 どう返していいかわからず、綱吉は曖昧に言葉を途切れさせる。あまりに価値観の違う白蘭に対して、自分の感覚がどれほど当て嵌まるのか。少しの理解も及ばないのなら、尚更。『友達』という単語に対しては、共に学生時代を過ごした親友二人が浮かんだが、その関係を白蘭と骸に置き換えるのは無理がある気がした。何故かと言われると、理由はわからないが。
「骸君にとって、僕は部外者なんだよ。悲しいことにね」
 白蘭は綱吉の困惑も気にせず淡々と告げる。悲しいと言いながら自嘲気味に微笑む白蘭は、普段よりも幾分か人間らしさがあった。これではまるで『お悩み相談』だ。
「部外者って……、身内じゃないってことか?」
「それはちょっと違うかな。んーと……、骸君が幸せになるのに、必ずしも必要な要素じゃあないってこと」
「要素……」
「そう。僕は骸君にとって必ずしも必要な人間じゃないんだ。僕がどんなに骸君のことが好きでも、骸君にとっては、僕なんて誰かしらで代替がきく存在に過ぎない。でも、君らは違うよね。他の誰にも替わられない、唯一無二ってヤツさ。……羨ましいよ」
 ますます人間臭くなって、白蘭は白蘭らしさを失っていく。けれど綱吉はふと思った。もしかして、これが彼の素顔なのではないか、と。大空の炎を持つくせにどこか霧の性情に近いと思っていたが、なんのことはない、そんなものは子供の吐息で晴れてしまう程度のものだったのだ。単なる強風には頑固に抗うくせに、好意を寄せているらしい子供が――骸が関わると、途端に崩れてしまう。やはり変わり者だ。そしてそれ以上に、なんだか自分に似ている気がする、と綱吉は思った。
「白蘭……」
「僕は骸君のトモダチだよ。もしくはシンユウ。でも、いつだって誰かに脅かされてる。僕は一生懸命に骸君の隣を守ってるんだよ。ここは僕の場所だ、横取りするなってね」
 綱吉の戸惑いを知ってか知らずか、白蘭は話すのをやめない。
「骸君は、そういうこと全部わかってるよ。わかった上で、僕をうまく利用してるってワケ」
「おい! それは――」
「だって本当のことだもん」
 それはさすがにあんまりだろう。そう続けようと思っていたのに、綱吉の言葉は半ばで割り込まれた。
「骸君は、僕を都合よく使うために、慣れない友達役を演じてくれてる。一生懸命、演じてくれてる。そんなの、適当にやったっていいのにね。……そういうとこ、やっぱり優しいと思うんだ」
「……そ、れは……」
「骸君、すっごくいい子だよ。少なくとも、僕はそう思ってる。誰が何と言おうとも、ね」
「お前、本当に……?」
「だから、そうだって言ってるでしょ? 僕、骸君のそういう後ろ暗いところも、努力して笑ってるところも、ぜ〜んぶひっくるめて大好きだもん。文句なんてない」
 当然だとでも言いたげな口調だった。白蘭にとっての当たり前と、綱吉にとっての当たり前は違うのだ。それこそ当たり前のことだろうに、綱吉は愕然とした思いを抱いていた。白蘭は、綱吉や守護者たち、それにクロームたちともまったく違う視点で骸に寄り添っているのだ。その関係は、一言では言い表せない。
「僕は骸君にとって、誰よりも必要なヤツになるよ。手放したくないって思ってもらえるように。唯一無二になれるように。骸君を幸せに出来るように。“彼”の理解者であろうとする限り、僕は“あの子”のトモダチでいられる」
 どこか鬼気迫る白蘭の様子に、綱吉は深く息を吐いた。白蘭と骸の間に何があったのかはわからない。それでも、綱吉は納得せざるを得なかった。白蘭は、間違いなく骸の味方だった。
「さ〜てと。ちょっと喋り過ぎちゃったかなっ」
 固まっていた腕を高く上げ、軽くストレッチ。おどけた様子を見せる白蘭は、普段の通り食えない笑顔をしていた。
「僕、しばらくどっかでお茶でもしてるから、その間にちゃっちゃと手紙書き直してくれる?」
「え?」含まれた意味に気付けず、綱吉は首を傾げた。
「その手紙、僕が骸君に届けてあげるって言ってんの」
 え、ええええー。綱吉は踏まれたカエルのような鈍い声を上げた。
「いや、いいって! ボンゴレの誰かに届けてもらうから!」
「まあまあ、遠慮しないで! どうせ僕、これから骸君とこに遊びに行くつもりだったしね〜」
 遊びに、と聞いて、綱吉は渋面を作る。
「……それは、友達として?」
「うん、トモダチとして」白蘭は平然と返した。「別に、おかしなことじゃないでしょ?」
 綱吉は深くため息をこぼす。
「……そうだな」
 友達なら、遊びに行くのは自然だ。そして、白蘭の話をそのまま信じるのなら、白蘭にとっては骸の役に立つことこそ何を差し置いても優先されるべきことなのだろう。綱吉は白蘭のために何かをするつもりはないが、あえてそれを阻害する気もなかった。
「――なら、頼もうかな。それまで邸内で好きにくつろいでいていいから」
「まっかせといて! 中庭のベンチにでもいるから、紅茶とマシマロ、よろしくね!」
 明るい声音の白蘭は、素直に喜色を出していた。本当に嬉しいらしい。
「マシュマロ、な。あとで届けさせるよ」
「ふふ、楽しみ! じゃ、頑張ってね」
 白蘭は軽い足取りで執務室を後にした。手紙を書くのを『頑張る』というのもおかしな話だと思いながら、わかってるよ、と綱吉は苦笑を返して見送っていた。



















 いつかも訪れた中庭には、ほんのりと懐かしさを感じさせるベンチがぽつんとあった。小さくて、何度も塗り直して白さを保っているアンティーク調のもの。白蘭が座るには少し窮屈だったが、気にせずに腰を下ろした。子供の遊具に無理矢理座る大人のような態だ。それでも白蘭は上機嫌で、暖かな日差しを楽しんでいた。
 そんな中、ピルルル、と和やかな空間に似合わない電子音が白蘭の胸元から響いた。
「んー?」
 けたたましく鳴くそれを、のんびりと取り出す。一見すると普通の携帯電話だが、暗号通信機能やら逆探知機能やら妨害電波発信機能やら、やたらと物騒な方向で高機能な代物だ。ピ、とボタンを押し、耳にあてる。
「もっしもーし? どしたの正チャン」
 画面上に表示されていたのは白蘭の右腕である入江正一の名前(ただし、『正チャン』となっていた)だった。
『もしもし白蘭さん?』
「うん。なになに、なんかあった?」
『いえ、特には。ただ、荷物の検閲が思いのほか長くかかっていて、そちらに行けるのはしばらく先になりそうです。まだ玄関先をうろうろしてるくらいですから……。さすがに今回は荷物の量が多過ぎましたね』
「んー……じゃ、花は置いてって、ぬいぐるみだけ持ってチアパパんとこ行こう。骸君、今日はそっちにいるんだってさ」
『わかりました。花は骸くんの部屋に持って行ってもらう感じでいいですか?』
「うん、いいよ〜。さすがに花屋に花は持ってけないしね。気配り気配り!」
『……そーですね』
 微妙な間の後にいい加減な相づちが続く。けれど白蘭は笑って「正チャンらしい!」などと喜んでいた。
「あ、そうそう、ひとつお使いを頼むの忘れてたよ」
『お使い? なんですか?』
 軽いノリで白蘭は続ける。
「コルネーレにつけてる監視に伝言をお願いしたいんだ〜」
『――!』
 瞬間、電話越しに正一が息を呑む。伊達に白蘭と長く付き合ってはいない。こういった場合に続く言葉を、正一は容易に想像出来た。
「ははっ、そんなに緊張しないでよ、正チャン。大丈夫大丈夫、一言だけだから」
『……なんて、伝えればいいですか』
「そうこなくっちゃ!」
 白蘭は嬉しそうに空を見上げ、晴れやかな青の中に愛しい子供の瞳を見た。す、と目を細める。

「――“邪魔だから処分して”」

 ぽつり。無感情に、それは告げられた。
「それだけ伝えてくれたらいいからさ〜」
 くすくすと口元だけ笑わせて、白蘭は暗い思考を押さえ込む。道ばたの小石程度でも、白蘭にとっては骸を傷つけうる脅威だった。取り除かねば。すべて、徹底的に。
『……了解、しました』
「よろしくね〜、正チャン!」
 ぷつん。呆気なく通話を終える。そのタイミングで、静かにベンチへ歩み寄るものがいた。
「失礼いたします。お茶をお持ちしました」
 メイド服に身を包んだ、プラチナブロンドの女――メイリアだ。両手に紅茶とマシュマロの乗ったプレートを持ち、軽く会釈をする。
「おっ、待ってました!」
 白蘭は両手を広げて歓迎し、嬉々としてプレートを受け取った。ミルクのたっぷり入った紅茶は、ミルクティーというよりティーミルクと呼ぶべき色合いをしている。甘党として有名な白蘭にとっては、紅茶といえばこういうものだった。そしてその隣に山盛りになっているマシュマロは、白い紅茶とは対照的に茶色が強い。
「今回はチョコ味? ふふっ、骸君が喜びそうだね」
 行儀悪く鼻を近づけ、くんくんと匂いを嗅ぐ。その芳香から、チョコレートの風味が効いていることは容易にわかった。白蘭の大好物は自身の髪色と同じ白いマシュマロだったが、骸の好物がチョコレートであると知った日からは呆気なく変わっている。
「中身は骸坊ちゃんの“嫌いなもの”ですけれどね」
 メイリアは模範的な笑顔を見せながらも、仄かに瞳を陰らせた。
「――へえ、そりゃ残念。注意して食べるよ。ありがとう」
「いえ。どうぞごゆるりとおくつろぎくださいませ」
 両手が空いた彼女は恭しく一礼し、芝生の生い茂る中庭を去っていった。
「ふふっ」
 チョコレート色のマシュマロをひとつ摘まみ上げ、ふにふにと弾力を確かめる。強く指を押し上げるそれは極上の感触をしていたが、深く押しつぶせば中に何か入っているのがわかる。
 ぱくりと半分ほどかじると、その断面には白い紙のようなものが入っていた。二つ折りにされたそれを手のひらの上で広げ、書かれている文字を読む。豆粒みたいな小さな字は、それでも意味を持って羅列されていた。イタリア東部の地名と男の名前、それから『銃』と『暴言』という単語。余計な文章は一切ないが、白蘭はその意味を捉えたようだ。禍々しく一笑し、余裕めいた姿勢を崩さない。
「僕の出番だよねぇ、骸君」
 ここにはいない子供の名を甘い声音で呼び、白蘭は役目を終えた紙を自身の右手に握り込む。すると海の名を冠する指輪が淡く輝き、次に右手を開いた時には微細な塵が風にさらわれて消えていった。マシュマロの残りの半分は感慨もなくポイと口に放り込み、数回噛んだだけで嚥下する。味わってなどいなかった。
「ふふ、ふふふふっ!」
 くすくすと小刻みに肩を揺らし、白蘭は骸の顔を思い浮かべる。きっと喜んでくれる、きっと褒めてくれる、そう考えただけで堪らなく胸が高鳴った。
「さて――」
 こくりと紅茶を一口含み、骸の『嫌いなもの』の末路を思う。舌を抜いてしまおうか。指をもぎ取ってしまおうか。二度と酷いことが言えないように。二度と銃など持てないように。

「どうやって食べようかなァ……」

























「白蘭、お待たせ」
「お!」
 白蘭が紅茶とマシュマロを堪能していたところへ、綱吉は綺麗に封のされた封筒を持って現れた。
「もう書けたの?」
「ああ。これ、頼むよ。――今度こそ読むなよ?」
 封筒を差し出しつつも、綱吉はその端を持って放さない。白蘭は苦笑して頷いた。
「二度は読まないよ。あんまり書き直させると僕の言葉になっちゃうし、意味がないからね」
「絶対だからな」
 念を押して、綱吉はようやく封筒を手放した。手紙と同じ青い色合いは、やはり美しかった。
「じゃ、確かに預かったよ」
「うん、頼む。――ああそうだ、白蘭」
 封筒を内ポケットにしまい立ち上がった白蘭に、綱吉は世間話をするように切り出した。
「ミルフィオーレのスパイは優秀なんだな。掃除に洗濯、裁縫に活け花、お菓子作りも上手いじゃないか。骸も懐いてるし、本物のメイドみたいだったよ」
「……あーらら」
 白蘭は大して動揺もなく呆れた声を出した。
「食えないねぇ、ドン・ボンゴレ。メイリアちゃん、隠密活動も得意だったはずなのに。次は凄腕のコックでも送り込むかな」
「やめとけよ。うちの料理長はああ見えて勘がいい。下手すりゃ三枚におろされるぞ」
「はは、そりゃ怖いね!」
 軽く笑って、白蘭はベンチを離れる。もうここには用がないとでも言うように、さくさくと歩き出した。
「白蘭。お前が本当に骸のことを大切に思っていることはわかったよ。嘘をついてないって、直感が言ってる」
 綱吉は白蘭の背中に語りかけた。
「でも俺は、お前が骸のためを思ってしようとしていることには賛成出来ない。前にも言ったけど、強引な解決は歪みを生むよ」
 ざ、と芝生を踏みしめて、白蘭は立ち止まった。ほんの僅かに、肩越しに振り返る。
「……妙なところで働くんだね、超直感ってやつは」
 静かに告げる白蘭の表情は、綱吉からは窺えなかった。
「でもせっかくだけど、その忠告は聞けないよ。僕は大切な人に害なすものを許せない。妥協とか許容とか、性格的に無理だもん。イヤなもんはイヤ。スキなもんはスキ。排除するのも愛するのも、やるなら徹底的にやるよ」
「白蘭、そんなことじゃ……」
「わかってるよ、お優しいボンゴレ十代目。ボンゴレが揺れれば骸君だって穏やかには生きられない。だから今回は君の顔を立てて、痴れ者の命まではとらないであげる。僕は逃げも隠れもしないから、ボンゴレに嫌疑はかからないよ」
 それでいいでしょ、と暗に聞こえた。綱吉は、静かに首を横に降る。
「そういう問題じゃない。そんなんじゃないんだよ、白蘭」
「……悪いけど、君がなんて言おうと、僕がすることは変わらないよ。じゃーね」
 切り捨てて、白蘭は早足に去ろうとする。
「――骸は!」
「!」
 突然にその名を叫ばれ、白蘭はびくりとして振り返った。
「骸は、よく笑うよ。でも、本当に心から笑いかける相手は、ほんの僅かだ」
「……何が言いたいの」
 白蘭は眉根を寄せ、不審を露にする。けれどそこには、先を知った上で確認しているような節があった。
「お前だって、本当は気付いているんじゃないのか? 骸は――あいつは、お前とじゃれている時、すごく楽しそうに笑っていた。羨ましいくらいに、自然だった」
「…………」
「骸は、お前が思うよりもずっとずっと近くに居るのかもしれないよ。手を汚さなくても、きっと骸はお前のことをちゃんと好いていてくれる」
「……それこそ、そんなんじゃないよ、ツナ君」
 白蘭は一瞬、酷く辛そうに顔を歪めた。
「君には言ってなかったかな。僕は骸君に恩がある。――過去の骸君にだ」
「……っ」
 綱吉は身を硬くした。あまりにも思い出があり過ぎる相手であり、一生その呪縛から逃れられないだろう人物だ。
「今の骸君に好かれたいって気持ちは大きいけど、どうしようもないくらいに大きいけど、それで終わるわけにはいかないんだよ。僕が骸君に必要とされるってことには、君の認識とは少し違う意味がある」
 淡々と続けて、白蘭は小さく頭を振った。
「変な慰めはいらないんだよ、ツナ君……。そんなの、くすぐったいだけだ」
 無理矢理な笑みは、ほろ苦い。小さくありがとう、と呟いて、白蘭はまた歩き出した。
「手紙、ちゃんと届けるから」
 背を向けたまま手を振り、遠ざかる。暖かい風はふわふわと彼の髪を揺らし、そのまま通り過ぎていった。
「……骸君のこと、大切にしてあげてね」
 ふわりと風に乗って届いた言葉は優しく、穏やかだった。
「…………」
 ただ立ち尽くして、綱吉は空を仰ぐ。

『答えろよ骸! 答えろ!!』

 かつて骸に投げつけた心ない言葉が蘇る。もしあの時、あの瞬間に白蘭がいたのなら、どうしただろう。周囲の状況なんて忘れて、純粋に再会を喜んで、汚れた小さな身体を躊躇いなく抱きしめてやれたのだろうか。
「大切に、か」
 あの時の綱吉の行動は、常軌を逸していた――今ならばそう思える。怯える骸を引きずって、狭く空っぽの部屋に閉じ込めた。誰にも触れられぬよう、誰にもさらわれぬよう、『大切に』閉じ込めた。それが骸を追いつめていることに気付いていたのに。
「――ごめんな、骸」
 ぽつりと零して、綱吉はベンチに座った。まだ白蘭の温もりが残っているのか、妙に生暖かい。気持ちが悪くてすぐに立ち上がりたくなったが、空の青の美しさを前に思いとどまった。骸は空の色が好きだった。そんな骸を空の見えない場所に繋いだのは、綱吉だった。
 小さく、溜め息をつく。
 無性に骸を抱きしめたかった。



















ものすごく間があいてしまった……。
そしてまた長い! まどろっこしい!
わかっちゃいても、なかなかスッキリと進められないもんですね。

次回は子骸さんと黒曜組と白蘭のターンになると思います。



2010.4.15