07.
「――よって、同胞たるドン・コルネーレ個人の名義での出資は取りやめ、同盟名義で出資することを再度提言します」
綱吉は普段骸に語る声とはまったく別の声で浪々と言い放った。重厚な外套をまとい軽く両手を組むのはボンゴレ十代目であり、誰も若造などと罵ることなど出来ない威厳が確かに存在していた。場の空気は厳かに引き締まり、会議は続く。
「その必要はありませぬ。あの孤児院は長年私が面倒をみてきた思い入れのある場所なのです。苦節十数年、私情を挟むなと言われればそれまでですが、情に篤いドン・ボンゴレならば分かってくださるでしょう」
「しかしそれは――」
「何度も言わせないでいただきたい。私は個人的な感情であの孤児院を大切に思っているのです。今までも、これからも。どうか最後まで私にお任せください」
「しかし……――いえ、もう結構です」
もし綱吉のため息と『しかし』の数をカウントしていたなら、おそらく二桁は行っているだろう。随分前から同じ話題で同道巡り。年上は誰であっても敬う精神が災いしたか、綱吉の心労はピークに達していた。つまるところ、もううんざりだったのだ。
「……長年良い関係を築いてきたあなただ、ご自分から罪を告白してくださると思っていました」
諦めが滲む言葉を零し、綱吉は馬鹿でかい円卓にちょこんと乗ったワイングラスに口付ける。ほんの少し喉が潤えばそれで良かったのだが、良いのか悪いのか、濃厚な味は逆に渇きを覚えさせた。ワインの良し悪しは未だにわからない。カツ、と小さな音を立ててグラスを円卓に戻すと、またため息をつく。そろそろ三桁に届くかもしれない。
「はて、罪とは? 私とてマフィアのはしくれ、清廉潔白に生きてきたつもりはございませぬ。だからこそ、償いとまではいかずとも、せめて誇れることをなそうと孤児院の面倒を――」
「その話は聞き飽きましたよ、ドン・コルネーレ」
綱吉は少し荒っぽい口調で割り入った。綱吉が年上の人間の話を邪魔するなど、滅多にないことだ。それだけ飽き飽きだったのだろう。
「あなたがあそこの子供たちの面倒をとても丁寧にみてきたことは知っています。――ええ、彼らをあんな立派な売人に育て上げるのはさぞかし大変だったことでしょう。思い入れも一入というわけですか」
「な……!」
円卓を囲む一同に動揺が走った。それは概ね二種類に分かれていた。『よくぞ言った』もしくは『何故言った』だ。つまり、皆が皆認識していたということに外ならない。
そんな反応を前にして、渦中の綱吉はまたため息をつく。
(他力本願は相変わらずか……)
会議を開いても、発言者は大体いつも同じだ。ドン・ボンゴレたる綱吉と、ドン・ミルフィオーレたる白蘭、あとは議題となる事柄の中心人物――いわば被告人だ。その他大勢は傍聴人然としているくせに、利害の外でぺちゃくちゃと文句を言う。庶民的な感覚を持つ綱吉からすれば、井戸端会議に興じる主婦を見ている気分だ。もちろん、平和な同盟関係を揺るがすわけにはいかないので、下手な注意をするわけにもいかない。組織の難しさを痛感することなど、もはや慣れっこだった。
「偉大なるドン・コルネーレ。どうか、もう諦めてくださいませんか」
「……何をおっしゃられているのか、理解に苦しみますな」
今回の被告人ことドン・コルネーレは、吊り目に垂れ眉の独特の顔を僅かにしかめ、自分の分のワイングラスを呷った。それを末期の水にしてやりたいと思ったのは、何も綱吉だけではないだろう。ドン・コルネーレはどこまでも諦めの悪い男だった。
「ですから――」
「まどろっこしいなぁ、もう」
カツ、という乾いた音と冷えた声に、皆の視線は一斉にひとりの青年に集まった。
「白蘭……」
つい普段の呼び方をしてしまい、綱吉は眉根を寄せて押し黙る。綱吉のすぐ隣の席に座る男――白蘭。白い仕立ての良いスーツに身を包んだ彼は、マフィアというよりはホストか何かのような印象だ。だがこの場においてマフィアの闇をもっとも色濃く体現するのは、間違いなくこの白蘭だろう。今でこそ落ち着いたものの、かつてはこの場にいるすべてのファミリーに勝負を挑んだものだ。そんなことは若気の至りとばかりに自然に同盟に溶け込む白蘭は、特に気にした様子もなくカツコツとワイングラスの縁を叩き、淡々と言葉を紡いだ。
「あのねぇ、ドン・コルネーレ。残念ながらこっちには証拠がたくさんあるんだよ。ボンゴレ側と重複してるのもあるし、ウチしか持ってないのもある。むしろあり過ぎなの」
コツ、コツ。半分ほど残ったワインが揺れる。
「あのさぁ、そろそろこっちの苦労も考えてくんない? 立件すんのは簡単なのに、同盟の古株だから〜とか、メンツに関わるから〜とかって、骨と皮みたいな連中が渋ってるんだよねー。で、あろうことか証拠隠滅に走ってくれるもんだから、なんかもうしっちゃかめっちゃかになるわけだ。だって、どう頑張ったって隠しようがない証拠ばっかりなんだもん。だからさぁ――」
コッ。ガチャン。
ワイングラスが倒れた。紅色の液体が円卓上をすべり、広がる。鮮やかな色合いは円卓の茶と混じり、血の色になった。
「そろそろ折れてくんないかなぁ? イヤなんだよねー、無駄に煩わされて仕事増やされんの。アンタは知らないだろうけど、こうやってくだらない会議がある度に僕の大事な大事なトモダチが寂しい思いをしてるんだよ。いい加減にしてくんないと、さすがの僕も……プッツン、しちゃうかもね?」
なんでもないことのように言いながら、白蘭はグラスの破片を指先で玩ぶ。鋭い切っ先はドン・コルネーレをしかと指していた。
「ドン・ミルフィオーレ、その辺で」
場の空気が急速に凍てついたのに気付き、綱吉は隣席に鋭い視線を送った。けれど白蘭は意にも介さず飄々としている。
「これ、本来は僕じゃなくて君が言うべきことだと思うんだけど。だってそうでしょう? 骸君がかわいそうだと思わないのかな?」
骸、という固有名詞を出されては、綱吉の心中に波が起こらないはずはない。それを理解した上での発言は、綱吉のみに働く鋭い糾弾となっていた。
「……今している話は、そんな個人的な話ではないでしょう。問題をすり替えないでいただきたい。それに――」
わかってはいても、綱吉は止まれなかった。
「ちゃんとした解決方法をとらないと、俺は骸に顔向け出来ない」
ドン・ボンゴレではなく綱吉として毅然と言い放たれた言葉は、一切の迷いがなかった。だが白蘭は怪訝な表情を返す。
「ふーん、変なの。君の認識だと、骸君は随分なモラリストなんだね。本当の骸君は、そんなの気にしないと思うけどなぁ」
しみじみと呟かれると妙な真実みがあって、綱吉はドキリとした。深く考えるのは少し恐い。白蘭と骸の関係を思えば、なおさら。
それを知ってか知らずか、白蘭は「まあ、どうでもいいや」と適当に流して、脂汗を滲ませる初老の男に向き直る。
「とにかくさ、もう折れてよドン・コルネーレ。今後のことを考えるなら、早めにゴメンナサイした方がお得だと思うよ? だいじょぶだいじょぶ、簡単なことさ。ほら――」
ぴ、とグラスの破片が床を指す。
「今すぐ土下座して靴舐めな」
「き、きっ、貴様ァ……!!」
興奮したドン・コルネーレがワイングラスを握り潰して立ち上がる。あっちもこっちもワインの香りがぷんぷんだ。
「口が過ぎるぞ白蘭! ドン・コルネーレも御着席ください!」
頭を抱えたいのを我慢して、綱吉は必死に二人を宥めにかかる。けれどそんなもの、明らかに曲者の類に入る白蘭に効くはずがない。
「おー、青筋浮いてるねぇオッサン。しかもすんごいくっきり! でもそんなに怒ることはないんじゃないかな? こっちはこれでもかなり譲歩してあげてると思うよ。だって、一文の得にもならない土下座ごときで許してやろうってんだからさぁ。ほらほら、命とらないだけマシでしょ? 土下座靴舐めが嫌だってんなら、市街を裸踊りで練り歩くとか、全ファミリーの前でメス猫の声マネして腰振るとか、もうなんでもいいから僕の溜飲が下がるような愉快なことしてみせてよ」
「い、言わせておけば……!!」
怒りに全身を震わせながら、ドン・コルネーレは素早く懐に手を忍ばせ――
「よせ! 抜けば容赦はしない!!」
「……ッ」
ぴたり、としわくちゃの手がとまる。綱吉の一瞬の殺気は、その場の主導権を握るに十分足るものだった。
「ドン・コルネーレ。着席を」
語調は柔らかいが、その奥には強い意思があった。屈服せざるを得ないほどの、意思が。
「……失礼を、いたしました」
ドン・コルネーレは悔しさを押し殺し、着席した。懐に潜んだ凶器が日の目を見ることはなかった。
「あなたの忍耐に感謝いたします、ドン・コルネーレ。――それに比べ、ドン・ミルフィオーレ。あなたはもう少し我慢というものを知るべきだ」
たしなめる、と言うには険しい声音で、綱吉は白蘭を睥睨した。返事代わりの小さな舌打ちは、隣りあった綱吉にはしっかりと届いていた。それをあっさりと無視して、綱吉は「さて――」と話を戻す。
「ドン・コルネーレ。今のはドン・ミルフィオーレ個人が出した勝手な条件であり、我々全体の意思ではありません。よって、承認もいたしません。我々は話し合いと良心による解決を望みます」
「うわ、それじゃまた会議延びちゃうじゃん……」
すかさず白蘭が茶々を入れる。だが綱吉はひたすら無視の姿勢だ。
「我々は武力による解決を望みません。どうかあなたの誠意ある対応を見せてほしい。我々にはそれを受け入れる意思がある。……あとはあなた次第なんですよ」
「わ、私は……っ」
ドン・コルネーレは視線をあちらこちらに散らばらせ、最後に明後日の方向を見ながらこう宣った。
「……身に、覚えが……、ありませぬ」
ハァ……。
綱吉は落胆の色を隠すのも面倒とばかりに、盛大なため息をついた。
「結局これだもんなぁ……」
白い髪と同色のスーツを闇夜にぽっかりと浮かび上がらせて、白蘭は心底嫌そうにぼやいた。バルコニーから見回す辺りは当然のように真っ暗。どこを見ても、どこまで見ても、ひたすら闇、闇、闇だ。その原因たる深い森は、昼間はバードウォッチングに最適らしい――とは、同盟名義で雇った管理人の言である。もちろん、呑気にバードウォッチングなどするマフィアのドンがいるかと言えば、答えるまでもない。
ああ星がキレイ、なんて現実逃避しても、虚しさが募るだけだった。
「今日一日、ホント無駄骨だったなぁ……」
「思っても口に出すなよ……」
なんとなく白蘭の隣に並んで、綱吉は痛む眉間を揉みほぐす。
「言ったって仕方がないだろ? 力で押さえ付ければどこかに歪みが出る。それがわかりきっている以上、時間がかかっても話し合いで解決しないと」
「そんなキレイごと言っちゃってさ、結局解決しなかったじゃない」
「次は解決するさ。それに、孤児院にはお兄さんが張ってくれてる。どうせミルフィオーレでも誰か張り付かせてるんだろう? あちらは何も出来ないよ」
「でも、どうせまたあんな不毛な会議になるんでしょ。面倒だなぁ」
愚痴る白蘭は苦笑の表情だが、内心かなり嫌気がさしているようだ。指先が手摺りを引っ掻いている。
「ていうかさー、せめてウチのビルでやってくれない? こんな僻地じゃ、来るのに手間と時間がかかり過ぎるよ。得るものもないのに苦労すんのって、僕の主義に反するんだよね」
僻地という表現には、綱吉も素直に頷けてしまった。いざ出立となって突然変更となった会場は、ひたすらに遠かった。ボンゴレの本拠地からここまで車で片道三時間半。しかも最後の一時間は街灯もない山道だ。防犯がどうの、境界がどうのと、それらしい理由は多々あるのだろうが、こんなところに会議場を建てた先祖を恨みたくなるのは仕方がないだろう。
白蘭に釣られるように愚痴めいたものを零したくなったが、綱吉は気を取り直すように首を振り、改めて口を開く。
「得るものなら、ちゃんとあるさ。没落しかけのファミリーはこの場に呼ばれたことで威信を思い出すし、他のファミリーは彼等がまだ呼ばれるに足る力を持っているものと錯覚する。上っ面だけだけど、全体の力のバランスがマシになる。政党じゃないんだから、ボンゴレとミルフィオーレの二大ファミリーだけでどうにかなるなんて思っちゃいけない」
「なぁに言ってんのさ、どうにかなるじゃん。僕らと他とじゃ勢力に大きな開きがあるし、僕らの決定は同盟の決定も同然。本来なら、それくらいワガママにやっていいんだ」
「そんなんじゃ、どこかしらで不満が爆発することになる」
「羽虫が騒いだら潰せばいいだけの話でしょ。僕なら一気に殺虫剤撒いちゃうね」
人を虫に例える言い方はひたすらに不愉快で、綱吉は表情に険を混ぜた。
「そういう言い方、やめろよ。それに、そんなことは許されない」
「はぁ? おっかしーの。君は誰に許されたいワケかな? 定番で神様? それとも骸君? たぶんどっちも思うことは同じだよ。どうでもいい、さ」
白蘭はあっさりと、しかし自信たっぷりに言い放った。またも骸のことを持ち出され、綱吉はぴりぴりとしたものを感じざるを得ない。
「……どちらも関係ないよ。俺の信念が許すかどうか、それだけさ」
「わァ、かっこいー!」
白蘭はすかさず白々しい拍手を送る。しんと静まった森にぱちぱちぱち、と乾いた音が吸い込まれた。本当の感情を伴わない行為など、何の余韻も残さない。音が消えるのと同時に、白蘭はころりと表情を変えた。
「そういうこと言っちゃうあたり、君って案外若いよね。ウザったい上に面倒だ」
嘲りが前面に押し出された言葉だった。白蘭は常に意図のわからぬ笑みで心情を隠す男だったが、今はとてもわかりやすい。滅多にしないだろう後悔の念まで透けて見えていた。
「あーあ、安易に同盟結ぶんじゃなかった……」
「不穏な発言は慎めよ。和が乱れる」
「仲良しの集まりじゃないんだから、そこまで和を尊重することないと思うけど。――ああはいはい、睨まないでよ。ゴメンゴメン」
綱吉の鋭い視線をどうでもよさげに手で振り払い、白蘭は笑みの要素の一切を捨て去った。
「でもさぁ。正直、ミルフィオーレ単体の時の方が動きやすかったし、ウチが筆頭ファミリーに躍り出て他を支配する方が何かとうまくいくんじゃないかって思うんだよね、最近」
「……永久停戦の契りを反故にする気か?」
「べっつにー? 何もボンゴレに仕掛けようってんじゃないよ。時間を浪費してばかりの意思統一に飽き飽きなだけ。そろそろワガママ言ったっていいと思うんだ」
「お前のワガママなんて聞いてたら、生命がいくつあっても足りないだろ」
「羽虫が何匹死のうが関係ないね」
「白蘭!」
夜の静けさに一喝が響き渡る。綱吉の燃える瞳は白蘭を射抜き、咎める。けれど白蘭の表情は変わらない。いや、むしろ嘲りが強まった気すらした。
「勘違いしないでほしいな、ツナ君。あの時停戦を申し込んだのは、別にこちらが不利になったからじゃないんだよ? 停戦した方が僕の利になると思ったからそうしただけ。ボンゴレに屈したわけじゃないし、むしろ状況は圧倒的にウチが有利だったわけだから、感謝してほしいくらいなんだよね」
あの時、とは、かつてミルフィオーレとボンゴレが全面戦争にまで発展した時のことだ。奇しくも六道骸の死と重なったあの頃、ミルフィオーレは圧倒的な戦力でボンゴレを追いつめ、蛇のごとき執拗さで殲滅しようとしていた。しかしそれは、ミルフィオーレを率いる白蘭の言葉ひとつによって、あっさりと過去となった。白蘭はあの時、綱吉の目の前でこう言った。
『もういいや。……全部、もういい』
その時の白蘭の表情を、綱吉は今も鮮明に覚えていた。白蘭の本当の笑みを見たのは、あの時のただ一度きり。満たされた子供のような、主人に撫でられた猫のような、そんな笑顔だった。彼に何が起こったのかなど、誰にも知るよしはない。だから綱吉はあるがままを受け入れることしか出来ず、傾ききった戦局は決する前に吹き飛ばされた。それから七年。長い歴史を持つ同盟に新参のミルフィオーレはあっさりと入り込み、トップへと躍り出た。永久停戦という、嘘のような条件を携えて。
「……それでも、一度締結したものを軽々と破るようなら、ミルフィオーレの威信は地に落ちる。信用のおけない者に着いていく輩は少ないよ」
「ウチは古めかしいマフィア様じゃないから、威信とか誇りとかどうでもいいよ。僕の目的が果たせればなんでもいいの」
「目的……?」
綱吉には白蘭という男の考えることが何一つわからなかった。こういう時、超直感が役に立てばどんなに楽だろうかと思うが、そうそう便利な能力でもない。綱吉は白蘭の菫色の瞳の奥を見透かそうとするが、やはり何も見えはしない。
「ふふ、もちろん秘密だよ。でもそうだなぁ、チアパパあたりにならいつか話してもいいかも」
その言葉を聞いた瞬間、綱吉の中で疑心が弾けた。
「お前っ、骸に何かする気か!?」
今にも掴みかからんばかりの剣幕だったが、白蘭は食えない笑みで受け流す。
「さて、どうかな。まあ、とりあえず安っぽい悪巧みとかじゃないから安心してよ。――それよりさ、明日君んち行っていい?」
「は、はぁッ?」綱吉は目玉を引ん剥いた。
「い、いきなり何なんだよ」
混乱しきった頭でなんとか情報を引き出そうと思うが、声は聞き取りづらいほどに上擦った。一方の白蘭は呑気なものだ。 「いやぁ、久しぶりに骸君に会いたいなと思ってさ」
「妙な話を聞いた後で簡単に頷けるはずないだろ!?」
「大丈夫、悪いことはしないって。骸君はトモダチだもん。元気にしてるか見たいだけ」
「骸は元気にしてる。わざわざ会いに来なくていい!」
「君の主観なんて聞いてないね。僕が実際に見て、触れて、話して判断することだ」
「五分面会するにも半年待ちの人気者がそんな暇人めいたことしていいのかよ」
「腹黒じじい相手の十分と純真な骸君との十分とじゃ天と地ほどの差があんの。一緒におんなじものを食べるのでも、骸君と食べた方がずっとおいしいしね」
ああ言えばこう言われ、こう言えばああ言われ、綱吉はぐしゃぐしゃと自身の髪を掻き乱した。わけがわからなかった。
「お前、なんでそんなに骸に執、着………………、ぁ、あッ――!」
突然、綱吉は引き攣った叫びをあげた。サァー、と音がしそうなほどに血の気をなくし、見えるか見えないかの速度で腕時計を確認する。現在二十二時。今から帰っても、着くのは三時間と半後だ。そうなると――。
「ぎゃーっ!!」
綱吉は十代の頃もかくやという素晴らしい絶叫をあげて踵を返した。
「? どしたの?」
釣られて白蘭もターンすると、綱吉の背中はもう随分と先にある。凄まじく速い。そして右腕として随伴していた獄寺の胸ぐらを掴む勢いで突撃する。
「ごッ、獄寺君今すぐ車出して! いやっ、むしろヘリ出して!!」
「え、ぇえ? そ、それはさすがに無理で――」
「じゃあ車でもなんでもいいから! とにかく早く!!」
「じゅ、十代目!?」
「早くッ!!」
綱吉は説明する時間すら惜しいと獄寺の腕を鷲掴み、駆け出した。
なんだか大わらわな二人の背中をぼんやりと見つめ、白蘭は自身の手をするすると口元に持っていった。
「おーい、明日行くからねー? いいんだよねー?」
「勝手にしろ!! ああもうっ、獄寺君行くよ!」
「は、はいィ!」
もはや台風同然の威力となって、二人は長い廊下を爆走し消え去った。
「……変なの」
ひとり残された白蘭は、率直な感想を述べてしばらくポカンとしたままだった。
ようやくツナ出せた……。
でもしばらくは何かと報われません。すいません。
2009.12.8
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