メリクリ、グイド!
!注意!
グイドシリーズの番外編です。
グイド完結編の蛇足的おまけ要素2話(正確には、1話+6話)を全話読んでいないとわからないかもしれません。
「ん? おまけなんぞあったのか?」な人は、完結編のあとがきと、その先のおまけ話のあとがきをご覧下さい。
そんなわけで、二人のクリスマスです。
はい、どうもおはようございますこんにちはこんばんは!
グイド・グレコ、ちゃっかり指名手配犯の17歳です。
見ての通りとってもハイです。
だって今日はクリスマスイブ!
緊張?
してるしてる。
そりゃあね、朝起きてベッドに縛りつけられてたりしたら誰だって生命の危険を感じるよ。しかも犯人の心当たりが、ひぃ、ふぅ、みぃ……うん、八人はいます。ちなみに、犯人予備軍はボンゴレに属する人間すべてなんですよー。
あはっ、笑うしかないって!
でもそんな障害、彼女の笑顔を思い浮かべればチョロいもんです。縄抜けは俺の得意分野だし、五時間で抜け出せました。……ていうか誰だ、あんな二重三重どころかぐるんぐるんのがっちがっちに結んだのは。
あ、いや、あのねちっこいまでの徹底加減からしてひとりの果物シルエットしか浮かばないからこれ以上は考えないけど。怖いし。緊張どころじゃないし。
とにかく!
今は彼女のことを考えよう!
もうすぐ時間だ。そろそろ……
「グイド! ごめんね、待った?」
ああ、カワイイ声!
俺は途端ににやける顔を適度に引き締めながら振り返る。
「ううん、今来たとこだから! クロー……む……?」
期待と現実とのマリアナ海溝的落差に、俺は凍りつくしかなかった。
「はっ、定番過ぎて飽き飽きする台詞ですね。もう少し気の効いた言葉はないんですか? これだからお子ちゃまは……」
まさかここまでするとは思わなかった。思いませんでしたよ。
俺の前には二つ仲良く並んだパイナップルが揺れていた。
「どうしてここにいるんですか、骸さん……」
言葉とため息が混ざって気の抜けた声になった。
小さい方のパイナップルことクロームは、白いファー付きの真っ白なコートに同色のふわりとしたミニスカートを覗かせて、靴はウサギの尻尾みたいな毛玉のついた柔らかな質感のピンヒール。上から下までとても可愛らしい。気取った風もなく、とてもクロームらしくて似合っていた。
一方、大きい方のパイナップル……つまり骸さんはと言えば、某超有名ブランドにオーダーメイドで作らせた守護者専用のスーツに身を包んで、上から下まで真っ黒のバッチリ任務仕様。血の染みも目立たないと評判らしい。そしてベースからしていつもより1.5倍は意地悪そうだ。かなり嫌な予感です。
骸さんは声に出してくすくす笑い、若干嘲りを感じさせる角度で俺を見下ろした。
「どうしてって、そりゃ繋いでたペットが逃げ出したら追うのが飼い主の責任ってもんでしょう? 特に、逃げたペットが脳内どピンクの思春期坊やならね。ちなみに、これはボンゴレ全体の至上命令です。そう簡単に逃げられるなどと愚かな希望は抱かないことをオススメしますよ。まあ、賢い君ならなんとなく察していると思いますがねぇ……グイド君?」
視線が、やばいです。
はい、つまりは以前の誤解がまだ解けていないわけで。守護者連中も犬兄さんも千種兄さんも、みんなして俺を飢えた狼扱い。そりゃ、クロームのちょっとした仕種にきゅんときたり、風のいたずらに若干前屈みにならざるを得ない時もあるのは否定出来ないけど、普通の範囲内だと思う。ノーマルな青春だと思う。彼らが思ってるほど俺はアブノーマルではないんです。何度そう言っても信じてくれないあたり、クロームは余程大切にされているってことで、そして俺は随分と蔑ろにされ――いや、それは悲しくなるから置いておこう。
元々さ、クロームはみんなのアイドル、もとい癒し役的なところがあったし。でも、さすがに全員が全員『敵に回したくないトップ10』ランクイン者だとさすがにきついものがある。牛小僧も、あれでいて十年バズーカなんて秘密兵器を持ってるものだからランクインだ。なんであんなにワイルドに進化しやがるんだ馬鹿牛。ああ、本当に厄介なヤツばかり。
でもさ、さすがに今日くらいは許してくれると思ったんだ。だって、今日は恋人達の憩いの日、クリスマス・イヴですよ。ずっと意図的にクロームから離されていた俺としては、やっとまともに会えると前々から楽しみにしていたのだ。
なのに……。
「あ、あの、でも、聖夜くらいは二人きりにしてくれてもいいんじゃないかと……」
「君にとっては聖夜というより“性夜”じゃないですか? クロームを毒牙にかけさせるわけにはいきませんので、全力で阻止しますよ。ああ、覚悟しろ、などとは言いません。自重しろ。クロームに触れるな。紳士たれ。以上、何か質問は?」
この人にそんな風に言われて言い返せる人物を、俺は雲雀恭弥以外に知らない。
白蘭さんもギリギリ危ういラインだと思う。
「……ありません……です」
泣きそう、俺。
「骸様、でも私、グイドと……」
今まで黙って事態を見つめていたクロームがおずおずと口を出す。
「クローム。男は皆狼です。例外などない。遺伝子レベルでそう決まっているのですから、諦めなさい。中でもこの子はちょぉっとばかり毛色の違う狼でね。可哀相に、万年発情期なんです。気をつけないとパクリ、ですよ」
……そこまで言いますか。
そこまで言っちゃいますか!
(ならこっちも本気でいきます!!)
「クローム、霧を!」
半ば自暴自棄に近い覚悟を胸に、クロームに指示を出す。
「えっ、あ、うん」
クロームは素直に周囲に幻覚の霧を作った。もちろん骸さんに幻覚は効かないけど、クリスマスに賑わう人々はそうではない。
「な、何!?」
「きゃっ……!?」
「なによコレぇ!」
「煙……? 火事か!?」
「のわぁ!!」
「行くよ、クローム!!」
「きゃっ」
どさくさに紛れてクロームの細い腕を掴み、俺は慌てふためく人々の流れの中に飛び込んだ。
「クローム!」
骸さんが咄嗟にクロームの手を取ろうと動くのが見えて、俺は素早くクロームの下に潜り込むように身体を捩じ込みクロームを担いだ。担ぐ、なんて言ったけど、いわゆる姫抱きです。
(軽っ!!)
あまり力に自信のある方ではない俺だけど、これなら速度を落とさずに済みそうだ。
「ごめんなさい骸さん!」
一応謝って、俺はクロームごとクリスマスに賑わう街を駆け抜けた。
「…………ほお? そう来ますか。そ・う・来・ちゃ・い・ま・す・か」
雑踏のど真ん中で人を避ける気すらない骸は、堂々と仁王立ちでネクタイピンを取り外し、口元にあてる。やけに様になっているせいで女性の視線は釘付けだ。しかし当の本人は涼しい顔をして内心メラメラと憤怒の炎をたぎらせ、ある種の正義の名の下に口を開く。
「聞こえてましたか?」
『ばっちりびょん!』
『はい』
『感度良好なのなー』
『聞こえてるぜ』
『極限にばっちりだ!!』
『聞こえてます』
『……哀れだなぁ、グイド……いや、これもしつけか』
即座にネクタイピン型通信装置の超小型スピーカーからたくさんの返答が返ってくる。
骸は満足げに微笑んで、高々と宣言した。
「では。作戦コード:チェリー、開始しますよ!!」
『『『『『『『おぉー!!』』』』』』』
「クフフフ、甘い夜になるだなんて思わないことですね、グイド」
最強のハンター達は、街の至る所で行動を開始したのだった。
「ま、撒いた……かな?」
かなりの距離を全力疾走したから、いい加減きつい。帰ったら走り込みでもした方がいいかなぁ。それはとにかく、背後確認。
(……い、いない……よな)
相手は人ゴミに紛れるなんて十八番な骸さんだ。姿を変えられていたらおしまいだけど、とりあえず怪しい素振りの人間は見当たらなかった。果たしてあの骸さんが“怪しい素振り”なんてものを見せるかどうかは別として。
「グ、グイド……」
「ん?」
ぽつりと控えめに名を呼ばれて、俺は今更ながらに自分のしたこと(していること)に気付いた。も、物凄くクロームが近いんですけどっ!
「わっ、わーっ!? ご、ごめんね、クローム!」
「いいんだけど、重くない?」
「だ、大丈夫、軽い軽い! クローム、ちゃんと食べてる? ちょっと心配だよ?」
「……グイドが、もっと太った方がいいって言うなら、たくさん食べる」
「クローム……」
やっぱり俺、彼氏なんだよなぁ、としみじみ実感した。時々不安になるけど、なんだかんだでクロームの恋人だ。こうしてクロームが俺の好みの体型というか理想の体型を目指そうとしてくれることが純粋に嬉しいよ。もちろん俺は今のままのクロームが一番だけど、マフィアなんてやってる以上、折れそうな身体はいつ何があるか心配だった。
「……無理、しなくていいよ。そりゃあ、もっと食べた方が健康的にいいとは思うけど、でもね――」
「そして髑髏をてめーがパクリってかぁ?」
「発情期の狼が……」
聞き慣れた声は真上からだった。
「うぇっ!?」
直後、反射的に跳び退った足元にヨーヨーがめり込む。見覚えのあり過ぎる武器だった。
「ち、千種兄さん! 犬兄さん!」
兄貴二人組は街中だというのに気にしたそぶりもなく左右に散った。完全に殺る気の動きだ。
(う、うそぉっ!?)
「に、逃げるよクローム! 口閉じて!」
「っ、ん」
恋人達の視線が痛い中、俺はまた走り出した。もちろんクロームを抱えたまま。
「逃がすと思う?」
冷静な声と同時、目線の高さに見えるか見えないかくらいの細い糸が張られた。
(マジですか!!)
あれ、知ってる。こう、スパンッてなるやつ。
俺、このままだと頭の上半分が吹っ飛ぶってことですけど!
「ひェえっ!!」
変な声を漏らしながら、俺はなんとかスライディングの要領で顔面スライスを回避する。まさかここまで容赦がないとは思わなかった。
「ちっ……」
(舌打ちしないでぇぇ!!)
怖いって。本気で怖いって!
今、家族の絆とかそんなアットホームな何かが途絶えかけた気がする。
「逃がさないびょーん!」
体勢を立て直す隙をついて、今度は鋭い爪が視界を塞ぐ。クロームを抱えているせいか、ことごとく顔を狙うらしい。いや、決して褒められたことではないけども。
とりあえず避けることは不可能だ。なら、
「うむぅっ!!」
がちん、と。おもいっきり犬兄さんの指を噛んだ。爪は喉まで届かない。
「あだだだだだっだァッ、痛ぇっての!!」
指を噛まれたままの犬兄さんが、次は死角となるクロームの側から爪を繰り出した。もちろんクロームをきちんと避けて、俺だけ抉る気だ。さすがにひどいと思う。
「ふぬーっ!!」
こうなったらもう、容赦などこちらも出来ない。首がもげるかと思うほど全力で頭を振って、犬兄さんの身体を横へ流す。
「ぎゃぃんっ!?」
走った勢いも合わせて思い切り街灯に腹をぶつけ、犬兄さんはずるずると柱にコアラのポーズでノックダウン。
(あとは千種兄さ――)
「んっ!?」
いきなり少し先にあった綺麗なツリーが根元からポキリと折れた。というか、切れた。その付近ではきらきらと糸が光って見える。
「うそぉっ!!」
直撃コースを辿るもさもさした塊に、俺は咄嗟にクロームの肩を叩く。
「うんっ」
それだけで意図を察したクロームが槍用の棒をどこからか出してくれる。もうこのびっくり手品には俺は驚かないぞ。
とにかく、人生初の棒高跳び、いきます!!
「つかまってて!」
それを合図に、俺は思いきり棒を石畳に突き立て、跳んだ。
あ、これ全然しならないや……。
ガツンッ!!
「ぃッ……!」
振動がびりっびり来た。跳んだらすぐに手を離そうと思ってたんだけど、世の中そう甘くはなかった。
「きゃ……」
思わずクロームを抱える腕から力が抜けて、クロームがずり落ちる。
……と、思ったら。
「……っ!!!」
たぶん、避けたところをヨーヨーで攻撃する気だったんだと思う。それがまあ、クロームのピンチ(?)に身体が反応しちゃったんだろうな。物の見事に顔面にクロームの足を減り込ませて、千種兄さんは石畳に転がった。ちなみに今日のクロームはピンヒールである。合掌。
「兄さんの勇姿は忘れません!」
クロームをきっちり抱き直して、俺は再び駆け出した。
『ぅ……骸、様』
「千種、首尾は?」
『申し訳ありません。チェリーを逃がしました……。ですが、盗聴器をつけることに成功しました。そちらに、位置、情報、を……』
「よくやりました、千種。ゆっくり休みなさい」
『……は、い……』
息も切れ切れな報告を聞いて、骸は奥歯を噛み締めた。チェリーはなかなか頑張っているようだ。生意気な。
「……次の作戦に行きます。準備は?」
『いつでもいけるぜ』
『おう』
『極限だ』
『はい!』
ネクタイピン型の通信装置から聞こえた返事に満足げに頷いて、骸も行動を開始した。
さすがに足と腕がやばくなってきた頃。
俺は絶好調逃亡中でした。
「山本、あっちへ回れ!」
「りょーかい! 逃がさねぇのなー」
ボンゴレの右腕・左腕、などと呼ばれる獄寺隼人と山本武がそれはもうバッチリのコンビネーションで襲ってくる。さすがというか大人気ないと言うか何と言うか、とにかく手強い。
しゅぼっ。
(げっ!!)
着火音は遠いものの、ロケットみたいな軌道で突っ込んでくるボムは正確無比で、被害を最小限にしつつ俺の足元を爆破する。
ぼぼぼっ、ぼふぁんっ。
「ひぃぃぃっ、ひぃあっ!?」
哀れ俺はその場でタップダンス。もくもくと煙が周囲を包み込むからほとんど見えないだろうけど。いや、あのですね、いくら最小限って言っても、いい雰囲気の石畳がさっきからどかんどかん破壊されて一般ラバーズもドン引きですよ!?
「い、いい加減にっ――」
「いい加減、観念しといた方がいいぜ?」
「っ!!」
あまりに近い声に、俺は咄嗟に腰を屈めた。
空気を切る音がして頭上の煙がすっぱり割れる。嫌な刃物が通り過ぎた。気のせいだろうか、今の確実に即死コースだったんだけど。
「すばしっこいのなー、ははは」
のほほんと(めちゃくちゃ恐い!)第二撃。今度は足元を掬い上げるような斬り上げだった。
「うのぁっ!!」
がちんっ。
それをなんとか飛び上がりながら靴の裏で白刃取りした俺は、サーカス団に入れるかもしれない。ていうか、むしろサーカス団に転職させてください! マフィア恐いよ!
(なんだってこんなことに……!)
刀を石畳に押し付けて、山本武がバランスを崩した間に走り出し、ナイフを投げる。それは俺の顔を正確に狙っていたボムに当たり、広範囲に煙を撒き散らす。なんてはた迷惑な!
「グイド、左っ!」
煙幕に気をとられていた俺にクロームが叫ぶ。
「……えぇっ!?」
見れば、通りをぴかぴかと派手に彩っていたイルミネーションを絡み付けたんだか絡んじゃったんだか曖昧な人影がこちらへ突進していた。
もじゃもじゃ頭には見覚えがあり過ぎる。
「ば、馬鹿牛ィっ!!」
「ランボですっ!」
訂正しながら突っ込んで来たそいつは、イルミネーションから電気をもらったのかバチバチと帯電している。
(え……これ食らったらクロームも感電するんじゃ……!?)
短慮な暴れ牛に苦情を言う暇もなく、短い角が間近に迫った。ああもう、ホント馬鹿だコイツ!
「こ、んのぉっ!!」
もう一度ジャンプして靴裏のゴム部分を馬鹿牛の角の尖端にあてがいつつ後方へ跳ぶ。頭の中で誰かが「10点!」と叫んだ。
「ぶぇっ」
「げっ、ランボ!?」
俺とは反対側にのけ反る馬鹿牛は、身体に巻き付けていたイルミネーションのコード(バチバチいってます)ごと倒れかかる。……山本武に。
「わっランぼばばばばばっ」
(ご、ご愁傷様……)
感電してガクガクしている山本武を置いて、とにかく俺は走る。とにかくこれで山本武はノックアウトだ。あとは――
「グイド、右へ!」
「ッ!?」
ほとんど反射的に俺は指示通りに右へ跳ぶ。
めきょっ。
(ひぃぃぃい!! 今めきょっていった! 今、めきょって!!)
俺がいた場所に立っていた騎馬のブロンズ像の腹が盛大に凹んでいた。心なしか馬の表情が悲しげに見える。気持ちはよくわかるよ……。
「よく避けたな、グイド!」
「避けなきゃ俺がめきょってなるだろう!!」
それをした張本人はと言えば、威風堂々、悪いことなどなんにもしていないとばかりに胸を張るボクサー――もとい、笹川了平。皆してどこまで邪魔をすれば気が済むのか。
ぼふっ。
(爆発……!?)
もう聞き慣れた音に振り返ると、
「まだ俺もいるぜ」
ミニボムの爆風にのって、獄寺隼人まで接近していた。手にはどっかの暗殺部隊で見たことのある変わったナイフ。ワイヤーとかついてたらシャレにならないんですが。
(ど、どうする……!)
左からはボクサー。右からは爆弾魔。誰か悪夢と言ってください。ていうか、本当にやばい!
「グイド、私を降ろして」
「えっ、あ、うん!」
言われるがままにクロームを降ろすと、笹川も獄寺も何故か動きを止めた。そしてクロームはわけがわからず動けない俺の腕を引いて駆け出す。
(えっ、え??)
引かれた自分の腕が、細かった。というか、俺は今日、昨日買ったばかりのグレーのダブルパーカーとグリーンブラックのダメージ・ジーンズにスニーカーなんて、洒落っ気のカケラもない服装だったはずなんだけど、どうしてか今は白い厚めの布地がもふもふしてるように見えるのは気のせいか。ついでに、何故か俺の足と思われる細〜い足にウサギの尻尾みたいな飾りがついたピンヒールの靴が見えるのは気のせいか。……俺、いつからこんな可愛い足になったんだろ。
(……いや。落ち着け俺! これって……!)
「ク、クロームっ! お、俺もクロームになってたりする!?」
「ふふっ、なってたりするよ!」
女の子の速度で駆けて、クロームは楽しそうに笑った。そういえば、今日は最初からばたばたしてばかりで、こんな風にクロームが笑ってくれたのはこれが初めてかも。駄目だなぁ、俺。
(早くなんとかしないと……!)
くるりと後ろを振り向くと、攻めあぐねているのだろう獄寺隼人と笹川了平とがじれったそうな表情で追っていた。クロームは女の子だし、術師だし、更にはスニーカーとは真逆の靴を履いているのだから足は遅いはずなのに、男二人は追い付かない。たぶん、追い付いたところでどうしようもないので追い付こうとしないのだ。でもそれはつまり、いつまで経っても俺達は逃げ切ることが出来ないってことでもある。
(なんとかこちらから攻めないと。……よし)
「クローム、俺が――」
「きゃっ!」
突然クロームが石畳の隙間にヒールを挟んでバランスを崩した。咄嗟に引かれていた腕を逆に引き返すものの、少し遅かった。
「っ……!」
右膝を強く打ってしまい、クロームの表情が歪む。白いタイツは防御力なんてないに等しい。
慌てて立ち止まり、クロームのの様子を見る。追われていることなんてスポンと頭から抜けていた。
「ク、クローム……! 大丈夫っ!?」
「う、うん……」
絶対、嘘だ。大きく擦り切れた膝からは血が流れて、タイツにシミを広げてる。せっかくのクリスマスイヴに怪我までさせて……。何やってるんだろ、俺。
「お、おいクローム、大丈夫か……?」
「待ってろ、今手当てを……」
すぐに追い付いた守護者二人がしゃがみ込んでクロームの怪我を診る。どうしよう、本当に。
と思ったら、その間にクロームはちらりと俺に視線を送った。その意図は、すぐに伝わった。
(………………うん、わかった)
クロームの傷に二人の意識が向いている隙に、俺は思いきり踵を振り上げ、垂直に振り落とした。
ずごっ!!
「ぐぉ……!!」
それは見事に笹川了平の頸動脈をブッ叩き、即座に意識を奪う。
「なっ、おま――ぶごっ!?」
立ち上がりかけた獄寺隼人の鳩尾にはクロームの短剣の柄がピンポイントに突き立てられた。あれは痛い……。
そんなわけで、獄寺隼人と笹川了平もノックダウン。ごめん、すごい罪悪感があるけど、でも元はと言えば追って来るあっちが悪いのだ。と、いうことにしておこう。
でも、クロームに怪我をさせてしまったのは事実だ。
「……静かなところで手当てしよっか」
「うん。連れてって、グイド」
クロームを再び抱き上げて、俺達は死屍累々の通りを後にした。好奇の視線に晒されるマフィアの中のマフィアの守護者という天然記念物を残して。
公園の片隅のベンチにクロームを降ろして、鞄に小さな救急セットを入れていたことを思い出す。救急セットだからといって、乙女と言うなかれ。いかんせん激しい毎日なので、これがないと色々困るのだ。
「えーと……あ」
鞄をあさろうとして、俺がまだクロームの姿のままなのに気付く。
「あはは、クロームって本当に細いよね」
自分に被せられている幻覚のクロームの腕や腰は、クローム自身そのままに随分と華奢だった。
「……そんなにじっと見られたら、恥ずかしい」
「あ、ご、ごめん、つい……」
うっかりしてた。自分の身体を見るみたいな感覚で見ていたことに気付き、ちょっと反省。
すぐに幻覚は消えて、元のラフな俺に戻る。でもごめん、実はもうちょっとよく見とくんだったって思ってる。いや、反省はしてるんだけどね。
「……やっぱり、もっと肉付きがいい方がいい?」
俺の葛藤をどう受け取ったのか、クロームは自分の胸のあたりに視線を落とした。そ、そんなあからさまな!
「いやっ、全然! このままのクロームがいいよ!」
慌てて言いつつ、鞄から救急セットを取り出す。クロームは深く考え過ぎるところがあるから、早めに治療の方へ意識を向けさせよう。別に俺だって、ボインが好きだとかペタンコが好きだとか、そんなんじゃない。ちっちゃくてもおっきくても細くても太くても、クロームがクロームなら、それでいいんだけどなぁ……とと、いけない、俺こそ治療に集中せねば!
「ちょっと最初は痛いと思うけど……」
「大丈夫よ」
消毒液を垂らして、俺は治療を始めた。
背中に盗聴器をつけられていることも知らず。
『クロ……当に……細い……ね』
『……そんな……じっと見ら……、恥ずか……い』
『……、ご、ごめ……つい……』
『……肉付きが……い方がいい?』
『……このままのクロー……いいよ。……ょっと最初は痛い……思う……』
『大丈夫……ぁっ』
『ごめ……いたか……た?』
『ううん……つづけ……ねがい』
『触っ……も、大丈……?』
『うん。グイ……優し……』
『……もっ……強く……ょうぶ?』
『……ん。っ……んぅ』
『ああ、こっち……も……う……』
『っぁ……』
バキンっ。
ネクタイピン型通信装置をへし折って、骸は無言でそれを石畳に転がした。
からからから……グシャンっ。
それを更に綱吉の足が踏みにじり、完全に粉砕する。
「ふぅー……」「はぁー……」
二人は同時に溜息をついて、やれやれとばかりに髪をかきあげた。ぎらりとした瞳があらわになる。
「……さて」
「ああ」
「「殺りますか」」
こうして綱吉と骸の最強コンビはチェリーを血祭りにあげるべく歩き出した。
全身から確かな殺気を滲ませて。
「よし、これでオッケー」
破けたタイツと絆創膏がちょっと目立つけれど、ひとまず治療は済んだ。
「ありがとう、グイド」
「ううん。ごめんね、ちょっと荒っぽかったかも……」
時折痛そうに声を上げるクロームが思い出されて、罪悪感が湧く。普段自分ばかり治療するものだから、ついつい手荒になってしまったかもしれない。
「ううん。グイド、丁寧だったよ。手当てするの、上手なのね」
「え、えと、そう? ありがとう」
好きなコに褒められて、喜ばないわけがない。お世辞にしたってなんだって、嬉しかった。でも、もうちょっと治療の腕を磨こう、俺。いや、それ以前に、絶対絶対、クロームを傷付けないようにする! 何よりもまずそれじゃないか。そして、こんなことになってしまったお詫びも兼ねて、クロームに楽しんでもらいたい。
「あのさ、クローム。これからどうする? 一応夜景が綺麗なところをピックアップしてあるんだけど、クロームが嫌でないなら、また抱きかかえてそこに行くのもいいかなって」
「……グイドがきつくなかったら、そうしてほしいな。グイドの腕の中、すごく心地いいの」
「……っ!」
そんな風に可憐に微笑まれて、YES以外の何を言えるというのか。俺は顔面が火照るのがわかりつつも隠すことすら出来ず、ぶんぶんと頭を振った。まあ、いいよね。クロームも赤くなってて可愛いし。お互い様ってことで。
「じゃ、じゃあ、いい? 肩に腕をまわして……うん、そう。持ち上げるよ?」
クロームの脇と膝裏を腕で支えて、そっと抱き上げる。あらためてこうしてみると、なんだかちょっとやっぱり、恥ずかしい。
「ふふ、グイド、顔真っ赤よ?」
「ク、クロームだって、赤いよ……っ」
「じゃあ、一緒ね」
「うん、そうだね」
いろいろあったけど、これはこれで俺達らしいのかもしれない。なんか忘れてる気がするけど。
「行こうか、クロ――」
「はいはい、そこまで。あーやだやだ、責任も取れない青二才チェリー君がお持ち帰りだなんて生意気なんですよ」
「盛りに盛って、零地点突破なんじゃない? あーやだやだ、これだから万年発情期は……」
「っ!!!!??」
「あ、骸様、ボス」
毛穴という毛穴全部が開いた気がした。クロームは純粋に慕う人達に会えて喜んでいるみたいだけど、俺には見えてるんですよ、彼らの背後に渦巻く六道輪廻的な何かが!! ばっちり俺をロックオンして逃がす気ゼロでしょ、あれ!
「クフフフ、可愛い可愛いグイド?」
「ふふふ、哀れな哀れなグイド?」
二人の言葉尻が嫌な具合に重なる。
「「生きて帰れるなんて――」」
「思わないことですね!!」「思うなよ!!」
ぶぁっ!!
死ぬ気の炎と幻術の炎が爆発した。
「ぎゃぁぁぁあああぁぁぁぁあああぁぁぁぁあああああああっっ!!??」
あの二人を相手にして勝ち目なんてミジンコの心臓ほどもないって!
クロームを抱えたまま、俺は無我夢中で踵を返した。
途端、
(え、黒――)
ぼふっ。
止まる間もなく、黒い布か何かに顔から突っ込んでしまった。かろうじてクロームは大丈夫だったみたいだけど――
「あ。雲雀恭弥」
「え゛……っ?」
「「ンなっ!?」」
不吉な単語に反応したのは、俺だけではなかった。
「な、なんでここにいるんです、雲雀さん!?」
「な、何故ここにいるんですか、雲雀恭弥!!」
俺の天敵二人の炎が急速に萎んでいくのがわかる。恐る恐る一歩さがると、トンファーをぶら下げた雲雀恭弥その人が無感情にクロームを見つめていた。
「……何。怪我したの?」
「うん。でも、グイドが手当てしてくれたの」
「ふうん、そう」
以上、会話終了。
なんなんだろう、この空気。クロームも雲雀恭弥ももう話は終わったとばかりに視線を外し、雲雀恭弥なんて俺達を素通りしてボンゴレと骸さんを見ている。というか、ロックオンしている。追うもの・追われるものの立場がくるりと変わった気がした。
「え、えと……?」
「哲、送ってやって」
戸惑う俺なぞ軽やかに無視して雲雀恭弥がロックオン状態のままに誰ともなく命じると、物音もなく謎のリーゼント男が現れた。
(ん? この人、確か風紀委員の……?)
「へい、了解しやした。こちらへどうぞ」
今までどこにいたんだろう、とか、これどーなってんの、とかはこの際後回しだ。リーゼントは紳士然として道を示す。こちらへと言われても、やはり少し戸惑うが。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 邪魔する気ですか雲雀恭弥!」
「そうですよ! 不純異性こーゆーですよ!? 見逃していいんですか!?」
そこへ食ってかかる二人は、半ば予想通りだった。けれど、雲雀恭弥は俺にはまったく想像の及ばない人物らしい。
「不純同性交遊まっしぐらの君達が言うことかい? それにね……」
ガチャンと音がして、トンファーから複数のトゲが飛び出した。
「散々街の風紀を乱してただで済むと思った?」
にやりと、好戦的な笑みが垣間見える。……見なかったことにしよう。
「さあ、咬み殺すよ」
この後どうなったのか、俺は知らない。
知りたくも、ない。
「綺麗だね……」
「うん」
哲さんと言うらしいリーゼントが連れて来てくれたのは、風紀委員会の持ちビルだという超高層ホテルのレストランだった。俺が事前にチェックしていたデートスポットの観覧車すら下に見える。もちろん夜景はこちらの方がずっといいだろう。ただひとつ、ところどころから噴き上がる炎やら蓮の花やらが気になるが、これはもう全面的に無視を決め込むのが得策だろう。オール無視だ、無視。考えちゃダメだ、俺!
それより、
「あ、あのさ、これ……――っ!?」
ポケットに手を突っ込んで、愕然とした。
「あっ、あ、あーっと、えと、いや、あの、あー…………ごめん、これ」
結局俺は素直にそれを出した。クロームの瞳と同じアメジストのペンダント。涙の形にカットされたそれは、どこでどうなったのか、ケースごと砕けていた。奮発しただけに大きなアメジストは大小ばらつきのあるカケラにわかれ、断面がきらきらと輝いている。細いチェーンはまったく無傷なのがまた切ない。
「……実はね、グイド」
するとクロームも小さなポシェットから何かを取り出して見せる。
「……これ、指輪……?」
それは二つのオモチャの指輪だった。シルバーを真似た安っぽい色の金属は薄く、宝石には到底及ばない赤と青のプラスチックの塊は真っ二つに割れてしまっている。
「あのね、私、ずっとグイドとお揃いの物が欲しかったの。でも皆がやめなさいって。出掛ける時も必ず誰か一緒で、ちゃんとしたのは買えなくて……。だからこっそり露店で見かけたこれを買ったの。壊れちゃったけど……」
「クローム……」
俺も、本当はペアリングとかそういう物が欲しかった。恋人の証というか、ちょっと気が早いかもしれないけど、誓いの証みたいで、憧れてた。でもそんなの例の小舅達に見つかればただじゃ済まないから、ペンダントにしたんだ。クロームだけの持ち物には手を出さないだろうから。
でもさ、クロームも欲しがってくれてたんだと思うと、すごく嬉しい。俺も勇気を出してペアものにすればよかったかな……。
(あ、そうだ!)
「クローム、その指輪貸して?」
「え、うん……」
クロームからオモチャの指輪をもらい、俺は割れたアメジストの中から角の少ない小粒のカケラを二つ探し出す。後はいつも持ち歩いているピッキング用器具(ツッコんだら負けです)をピンセット代わりに指輪の爪の部分を広げ、そこへアメジストのカケラを置き、爪を閉じる。しっかりとはめ込み、もうひとつも同様に。そうすれば、ほら。
「クローム、はい!」
クロームの右手の薬指に指輪を通す。オモチャだからフリーサイズだ。余った分は巻き付ければいい。すんなり入ってすんなりフィット。クロームの手にはきらきらと紫の光が宿った。
「うん、よく似合ってるよ」
「わぁ……グイド、すごいわ!」
クロームは素直に喜んで、逆に俺の右手薬指にもうひとつの指輪を通してくれた。クロームと違ってちょっとリングが小さ過ぎた。でもオモチャだから簡単に開いて、ぴったりとはまる。俺の指にも紫が輝いた。
「ありがとう。ふふ、綺麗だね……」
オモチャの金具に本物のアメジスト。デザイナーか誰かが見たら怒り出すかもしれない。でも、俺は綺麗だと言い切れる。だって、クロームが微笑ってくれてるんだ。他の感想なんて、ない。
「婚約指輪みたいね」
「あ……っ!」
最後まで抜けている俺は、指輪に口づけるクロームの可愛さにどうにかなりそうだった。
うちの作品で一番甘いのはグイド達かもしれない……ということで、クリスマスネタはグイ髑で(笑)
もはやバカップルになりつつあるのでここらでやめといた方がいいとは思いますが、なんかこう、幸せいっぱいな二人を書いてると和みますねー。
そんな中、実を言うとオマケがあります。
中途半端に切れてる骸さんとツナのその後ですね。ですが、そちらは若干のR指定要素を含みます。あ、もちろんグロではなく、エロ的な意味で。
R15程度ですが、ほのぼのメインのグイドシリーズにそぐわないので、このままのんびりと終わりたい方・15歳未満の方はそちらへはいかないでください。
R15おまけ
2008.12.23