06.ナッポー
「骸の髪って面白いくらいにさらっさらだよな〜」
骸がジョットを家族として認めて以来、ジョットは頻繁に骸の髪に触れるようになった。自分の髪が重力をまるで無視したようなくせ毛なので、指通りのいいしっとりとした骸の髪を非常に気に入っているのだ。
今日も朝から櫛を片手に、寝癖を治してやるよ、と息巻いていた。実際は寝癖など骸の髪には全くの無縁なのだが。
「はぁ……」
なすがままにされている骸が、ひっそりとため息をついた。ジョットに頭を撫でられるのは、不本意ながら心地良いと思う。しかし、かと言って抵抗がないわけではなかった。身体は子供でも、精神が重ねた月日は数え切れない。そう言った意味では、ジョットより遥かに年上なのだ。そんな自分がこんな扱いを受けることには、やはり複雑な思いを感じざるをえない。
「お、おぉっ? 俺、美容師の才能でもあったのか」
悶々としている間に、どうやら寝癖直しという建前の髪いじりが終わったらしい。ジョットがいきなりわけのわからないことを口走って、しきりに骸の後頭部の上あたりをいじっていた。
「……?」
ジョットの手は頭には触れていないはずなのに、なんとなくくすぐったさを感じるのを不思議に思った骸が、自分の頭に手をやる。ふわふわとしたものが指先に触れた。
「……? ……??」
「あ〜ほら、鏡! 鏡!」
部屋の角にあった大きな姿見をジョットが運び、骸の前に立てる。
「なっ、なんですコレは!?」
いつの間にやら骸の頭には稲妻が走っていた。というか、分け目がきれいにジグザグにされ、さらにその先、後頭部あたりからふわふわふさふさと直毛のはずの骸の髪が立って揺れていた。
全体的なシルエットは、まさに――
「パイナップルだな!」
朗らかに笑われて、骸の肩はわなわなと震えた。それに合わせて後頭部のふさもふるふると揺れるのが虚しい。
「だな、じゃないですよ! だな、じゃ!! なんなんです、これは!」
「だから、パイナップルだって」
飄々と返すジョットをキッと睨みつけるが、何をするにもふさが一緒に動いてしまう。その姿に思わずジョットが噴き出した。すると骸の眉間にこれでもかと言うほど皺がより、射殺すような視線でジョットを貫いた。
「いや、可愛いって! 大丈夫大丈夫!」
何が大丈夫なのか全くわからないが、とにかく元に戻そうと櫛を奪い、揺れるふさに押し当てる。
「……ちょっと、これどうやったんですか!?」
何度櫛を通しても、そのふさは嫌がるようにピョコンと立ち上がってきた。こんなことは今までになかったことだ。
「どうやったも何も、ジグザグ分け目にしたら勝手にこうなっただけだよ」
またも飄々と言い放つと、ジョットは骸のふさを優しく撫でた。骸の癖のないさらさらの髪も良かったが、妙に強情なその葉っぱ部分もいいなと思う。
「〜〜〜っなら、この分け目を元に戻せばいいわけですね!」
と、櫛の細い方を分け目に差し込む。
「いいじゃないか。このままにしとけよ」
骸の手をジョットが櫛ごと掴んで止める。
「何言ってるんです! 人事だからって暢気に!」
ぐぐっと手に力を込めるが、いかんせん身体は子供だ。力では敵わない。
「ちょっと、大人げないですよ!?」
櫛の先端が頭皮にずんずん突き刺さって痛い。そんなことを知ってか知らずか、ジョットはまあまあと骸を宥める。
「パイナップルの花言葉、知ってるか?」
とりあえず骸の手を掴んでいた手を離す。
「知りませんよ! 何です?」
「完全無欠、だってさ」
あまり使わない単語をあんな南国果実が秘めているとは思わず、骸は少し驚いた。
「見た目に似合わなくて逆にいいだろ?」
なっ、と暗にほのめかして後ろから骸を抱きしめる。
「〜〜〜〜〜〜わかりましたッ!」
骸さんパイナッポーになる、の回。ジョットが気に入ってくれた髪型だから今でもそのまま。なーんて、そ〜ぅだったらいいのにな〜♪
2008.4.1
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