04


「……ん……」
 微かな声を漏らして、骸が目を開けた。目に映る天井は、既に何度目かになる光景である。
「おはよう」
 視界にふっと蜂蜜色が飛び込んで来た。ぼんやりとした視界が徐々にクリアになって、黒服に身を包んだ男の嬉しそうな顔が判別できた。
「熱は……んー……下がったみたいだな」
 額に素手を乗せて、良かった、と微笑んだ。ただでさえ童顔なのに、笑うとそれが余計に強調されて、黒服がひどく浮いて大層滑稽だった。
「気分は? 傷はまだ痛むか?」
 骸が上半身を起こすと、全身がズキリと痛んだ。自分の身体を確認すれば、至るところに包帯が巻かれて地肌の面積の方が小さいくらいだった。
「……まだ、少し痛みます」
 正直に答えながら、顔の右側を覆う包帯の端を探し、丁寧に巻かれたそれをくるくると外していく。
「右目は特に出血がひどかったんだ。まだ外さない方がいいぞ」
 ズキズキと引っ切りなしに痛む右目は、出血は止まっていたものの、全く光を感じることがなかった。
「隠さないでと、言われたばかりなんです」
 黒髪の少女の顔が脳裏に浮かんだ。もう眼帯を使うことはないだろう。
「……そっか」
 あらわになった紅い目は、どこか遠くを見つめていた。
「な、腹減ってるだろ? 今りんご持ってくるから、ちょっと待ってろよ」
 重い空気を払うようにニコリと笑うと、ジョットはさっさと部屋を出て行った。
 そういえば前もりんごを剥いていた気がする、とどうでもいいことを考えながら部屋の中を改めて見回す。
「……ぁ」
 ベッドサイドの小さなテーブルに、あのマリア像がひっそりと佇んでいた。そろそろと手を伸ばし、紅く塗られた陶器の身体に触れる。ひんやりとしていて気持ちがいい。そっと掴んで灯にかざすように持ち上げてみる。紅が光を受けて夕日のように輝いた。さらに、反射して紅く染まった光の照らす先、ベッドの背に面した壁に、額に入った絵がかけられていた。
 4人の子供たちの絵。それはまるでひとつの名画のように、きらきらと輝いていた。
「……」
 骸がしばしその絵に見入っていると、たたたっ、とドアの外から軽快な足音が聞こえた。ノックもないままドアが開かれ、りんごを腕に抱えたジョットが嬉しそうに入って来る。その際、ドアの外にちらりと守衛らしき2人分の影が見えた。
 りんごで腕が塞がれているジョットの代わりにドアを開けたのは、そのうちのどちらかだろう。
「おまたせ! 今剥いてやるからな〜」
 目に見えてウキウキした様子で、武骨なナイフを取り出した。明らかに剥き慣れていない手つきで、かなり分厚く剥いていく。
(普通のフルーツナイフで剥いた方が剥きやすいと思いますが)
 心に思っただけで、口には出さないでおいた。そんな骸の視線をどう受け取ったのか、ジョットは手を動かしながらも骸の持っているマリア像に目を向けた。
「それな、雲の守護者がお前にってさ。証拠品として別にもう一個見つけたからって」
(雲――あの男が?)
 少し意外に思ったが、感謝の念などは全く浮かばなかった。元々これは彼らが持つべき物なのだから。
「はい、剥けた!」
 随分と体積が減ったりんごを更に小さく切り分けて、そのうちの一つをフォークに刺し、そのまま骸に差し出した。
「……いただきます」
 少し躊躇したが、今更毒を疑う意味もないので、素直に受け取る。パクリと口に放り込み、咀嚼し、飲み込んだ。
 ごく普通のりんごだ。毒の味もしない。
「……」
「……」
「……」
「――あのさ、感想とかは?」
 随分と間が開いたのは、どうやら骸の感想を待っていたらしい。
(感想? 林檎の味がしますけど、それ以上に何があると?)
 骸は食に対する執着が極端に薄い。食べ物など栄養が取れればそれでいい、くらいにしか考えないのだ。
「毒は入っていないようですね」
 あえて挙げるならそれくらいか、と淡泊にもらした。
「当たり前だろ! っていうかもっとこう、甘いとか酸っぱいとか今まで食べたりんごの中で1番だとか俺が剥いたからこそおいしく感じるとかさぁ!」
 他に何かないのかよ、とジョットは眉をしかめて、自分もりんごを頬張った。うん、おいしいじゃないか、などとぶつぶつ呟いている。
「林檎は林檎。ただそれだけだと思いますが?」
 淡々と言うと、ジョットは呆れたように小さくため息をついた。
「……ひとつわかった。お前は食べ物に好き嫌いしないタイプってな」
 それがわかったから良しとするか、と一人で頷いて強引に納得した。
 そしてハッと気付いたように目を見開くと、ぎゅるっと音がしそうなほど勢いよく骸の方を向いた。
(いちいちオーバーな人ですね)
 などと骸が思っていることも知らず、ジョットは慌てたように骸に言った。
「まだお前の名前を聞いてなかった!」
 りんごなんて食べてる場合じゃなかった、と骸を見つめてくる。
「……骸です。六道骸」
 なんとなくその熱い目を見ていられず、視線を逸らして答えた。
「ロクドー・ムクロ? 日本語……だよな」
「よくご存知で」
 日本人には見えないこの男が、骸の名前を日本語であると当てたことは実際意外だった。イタリアでは日本などせいぜい極東の島国くらいにしか知られていないだろうに。
「雨の守護者が日本人でね。俺は日本贔屓なんだ」
「なら、最初からあの絵の文字を読めばわかったのでは?」
 あの絵には骸の名前がきちんと書かれていたのだ。他の3人の拙い字と違って、骸の文字は教科書に載っていそうな丁寧な字だった。
「お前の口から聞かなきゃ意味ないだろ」
 それに、と続ける。
「あんな難しい字、雨のやつじゃ読めないって」
 ほんの数回のやり取りで、骸の中の雨の守護者の印象が固まる。まぁどうでもいいことだが。
「なぁ、骸って、どういう意味なんだ?」
 漢字が読めるほど日本語を学んだわけではないが、漢字一字一字にそれぞれ意味があることくらいは知っていた。ジョットは日本語のそういう奥深いところが気に入っていたが、深過ぎて少々難解だとも常々感じていた。
「……首のない死体、です」
 淡々と答える骸に、ジョットの笑みが引き攣った。まぁ普通の反応だろうな、と骸は思いながら、凪達も同じ反応をしただろうかと想像しかけてやめた。
「それはまたすごい名前だな。最初から死んでるってことか?」
「僕には一般的な死の概念がありません。同様に生の概念も。最初から生きてないのだから、死にもしない。死体が動いているのと変わりないんですよ」
 それを聞いてジョットは難しい顔をしてしばし黙りこんだ。昔からどうにも深く考えるということが苦手な彼は、それすら長くは続かなかった。
「あぁ〜、もう無理! 不吉過ぎて逆に縁起がいいかもしれないってことで一見落着な!」
 わしわしと骸の髪を掻き混ぜて、にかっと笑う。
「いずれお前に胸張って生きてるって素晴らしいって言わせてみせるよ」
「……っ、何を言っているのかわかりませんね。というか、離してください!」
 頭を抑えてくるジョットの手を払う。めちゃくちゃにされた髪は、しかし髪質がいいのですぐに元に戻った。
「悪い悪い それにしても骸の髪さらっさらだな〜」
 払われたのとは別の手で再度骸の頭を撫でる。ジョット自身の髪はひどいくせっ毛なので、骸の真っ直ぐで指通りのいい髪が羨ましかった。
「……離せと言ったはずですが」
 若干声を低くして睨めつける。しかしジョットは気にした風もなく、飄々としていた。むしろ少し楽しそうに笑うと、腰を屈めて骸と目線を合わせてくる。
「俺の名前を呼んでくれたら離すさ」
「っ!」
 骸は眉間に皺をよせて、ジョットの視線から逃れるように顔を背けた。
「……ちぇー、駄目か。まぁいいさ、またのお楽しみってことで」
 ぽんぽんと骸の頭を軽く叩くと、残念そうにしながらも笑顔のままで踵を返した。
「……どこへ?」
「悪いな、これから会議なんだ。守護者の皆にいろいろ話さなきゃいけないからな。何かあったら、部屋の外に部下が待機してるから、そっちに言ってくれよ」
 ジョットは顔の横でひらひらと手を振って、軽やかな足取りで部屋を出て行った。

パタン

 ドアが閉められた後も、骸はジョットの去って行った先を見つめていた。
「……ジョット――」
(よくわからない……あの男も、僕も)
 しばらく右目の能力は使えないだろう。今のままでは、まだここを離れることはできない。しかし、もし今右目も身体も万全だったとして、自分は一体どうしただろうか。
(わからない)
 頭痛を感じて、ぽすっと身体を横たえる。どうやら布団は干したてのようで、日だまりの柔らかい匂いがした。

  「あったかい……」
















「それがも〜、可愛くって可愛くって!」
 ひとり盛り上がるボスを見て、守護者たちは皆何とも言えない顔をしていた。
「んで、その骸って子、本当に霧の守護者にすんのか?」
 雨が嵐に睨まれながらも質問する。今までの話で骸がどんな経緯でここに来たのかはわかったし、ジョットが骸をとても気に入っていることも痛いほど伝わってきた。しかし肝心のこれからについては全く触れていないのだ。
「まだそういう話はしてないけど、そうなることを俺は望んでいるよ」
「ふぅん、そっか。まっ、俺は仲間が増えることに異存はないし、お前がそんなに気に入ってるなら、早く会ってみたいな」
「俺もだ。ボスが極限に褒めちぎるヤツだからな。しかも雲のやつのお墨付きだ」
「僕も。話を聞く限りじゃあんまり弟分って感じではないみたいですけど、歓迎したいですね」
「はぁ……。オレはボスがいいならそれでいいですけど、面倒なことになりそうですよ」

「ははっ、じゃ、そういうことで今日はこれまで。解散!」
















「……」
 骸が目を覚ました時、部屋は窓から差し込む夕日で橙色に染まっていた。
「……?」
 ドアの外から、わずかに人の話し声が聞こえてくる。



『ボスはどう……てあんな……を――』
『ボ……には考えが……』
『しかし!』
『オイ、声が……』
『あいつの……で……妻は……! 炎に巻かれ……! どうし……んな……!』
『落ちつけ!』
『俺は……対ゆる……ない!』
『ボス……裏……るのか?』
『いや……が、俺……納得……ない』
『なら……はボスの……定には……』
『わかっ……る! だがどうしても――!』
『……』



「くだらない」
 小さく吐き捨てる。
(憎いなら殺せばいいんですよ)
 ズキリと右目が疼く。右の視界にちりっと僅かに光を感じた。

 コンコン

「入るぞー?」
 返事を待たずにドアを開け、暗い部屋の中に入る。
「寝てるか……?」
 声を潜ませ、足音も抑えぎみにベッドに近寄り覗き込む。
「起きてます」
 ぱちっと目を開けた骸が上体を起こす。
「……何かあったか?」
 骸の右目に宿る剣呑な光に気付き、ジョットの声が濁る。
「別に。あえて言うなら、右目がわずかですが光を感じるようになってきたくらいです」
 それは喜ばしいことだが、この部屋には光などない。今骸の右目は何を映しているのだろうか。
「それは良かった。ところでさ、一緒に夕飯食べないか?」
 重い空気を払拭するように、ジョットが笑いかける。しかし、骸は首を縦に振らなかった。
「お構いなく」
「でも、何か食べないと良くならないぞ」
「これくらい平気です。――少し、休みたい」
 視線を逸らされ、ジョットは少しの寂しさを感じた。
「……わかった。明日は一緒に食べような」
「……」
「おやすみ」
 骸の頭に手を伸ばしかけて、やめた。また明日撫でればいい。今はそっとしておくことにして、部屋を出て行った。
 ジョットの姿を目で追えば、閉まるドアの隙間から守衛と思しき男の憎悪に塗れた瞳がちらりと見えた。
(何が彼を押し止めているんでしょうね……)
 この子供の姿か、ボスの命令か。どちらにしろ、大切な者を失ったことに比べれば随分とちっぽけな問題だ。
(その憎悪を僕にぶつけるべきなのに)
 暗い笑みを浮かべ、右目を撫でる。痛みとは違う、歓喜の疼きがあった。
(少し後押ししてあげましょうか)
「クフフ」












 
 それから数日が経ったある日。

 コンコン

「骸ー。入るぞー?」
「……」
「なんだ、起きてるなら返事くらいしろよー」
 返事をする前に入って来る方も来る方だと思いながら、骸は右瞼を撫でる。少しずつ光を取り戻しつつある右目は、今か今かと機会を待ちわびるように疼いていた。
「目、あんまり触らない方がいいぞ」
 骸が事あるごとにそうするのを何度となく見ているジョットは、右目を傷めはしないかと心配だった。
「……今日は会議じゃないんですか」
 右目から手を離すが、未だに疼くのを止めてはくれなかった。少し疎ましく思いながら、ジョットの予定を聞く。ここへ来てからというもの、ジョットは毎日一度は必ず骸に会いに来て、たわいない話に興じていた。マフィアのボスの仕事はなかなか地味らしく、守護者との会議、同盟マフィアとの会議、敵対組織との会議、地元住民代表者との会議にはじまり、会食やら見回りやら小競り合いやら、そしてどんなことの後でも報告書だのの書類整理が待ち受けているらしい。有力貴族との3時のおやつの報告書など、一体何の意味があるのか、などとうんざりした様子で愚痴を漏らすこともあった。
 しかし今日はいつもと様子が違った。微笑みを浮かべてはいるが、どこか寂しさのようなものを感じさせる笑みだった。
「今日は、追悼式なんだ」
 ぴくりと骸の瞼が揺れた。ジョットは何の、とは言わなかったが、大体予想はつく。今日は少し部屋の外が騒がしかった。あの街の追悼式なら、骸を恨んでいる守衛も出席するのだろう。
「――そうですか」
 右目の疼きがひどくなって、吐き気がした。
「なぁ。お前はずっとそっちの話題には触れてこなかったよな。……あの子達のことも」
ジョットがベッドの脇に椅子を持って来て、腰かけた。骸が避けてきたということは、そこに骸を理解するための鍵があるはず。いつかは話すべきことがらだろう。そんなジョットを、骸は冷めた目で見つめた。
「まさか僕に出席しろとでも?」
「そうは言わないさ。ただ、お前があの子達の遺体の行方を尋ねないのが不思議でね」
 思えば、ジョットが初めて骸に出会った時も彼らは共にいた。あの街が炎に消えたのも、彼らの死が大きく関係していたのだ。
「無意味だからですよ。死ねばただの物に過ぎない。彼らはもうそこにはいない」
 淡々とした答えに、ジョットが顔を歪める。
「まるで全部知ってるような言い方だな」
「全部かはわかりませんが、知っていますよ」
 不遜とも思える達観した態度が、ジョットはひどく悲しかった。そこに諦めと寂しさが垣間見えたからだ。
「彼らはもう、僕のことなど忘れています。この生において出会うことはないでしょうね……」
「どういうこ――」

コンコン

 ジョットの言葉を遮って、硬質なノック音が響いた。この音は嵐の守護者だろうなと思いながら、唇を噛む。骸の心を覆う影に、ようやく手が届きそうだったのだ。返事が少し荒くなってしまうのも仕方あるまい。
「どうぞっ」
 案の定ドアを開けたのは嵐の守護者で、少し驚いたようにぎこちなく室内に足を踏み入れた。
「どうかしましたか、ボス?」
「……いや、ごめん、何でもない。そろそろ時間か?」
 嵐の守護者に悪気はない。もやもやした気分を振り払い、立ち上がった。
「はい。外に馬車が用意してあるのでそちらに」
「わかった。先に行って待っててくれるか」
 わかりました、と嵐の守護者が立ち去るのを見届けて、ジョットは骸の方へ向き直る。
「一応伝えておく。あの子達の遺体は、この屋敷の裏手の丘に埋葬してある。お前の許可を得ないまま勝手なことをして悪いと思ったけど、そんなこともないみたいだな」
 それだけ言うと、ジョットは足早に部屋を出て行った。
 扉が閉まるのと同時にズキリと大きく右目が疼いた。痛みとも言えるそれに、骸が思わずうめき声を上げる。
「……く……ぅっ」
 咄嗟に手で押さえるが、断続的なそれは一向に止まず、右目に指を食い込ませて耐えた。
「ぅあ、ぐ……!」
 瞼から血が滲んでくる頃、ようやく痛みの波が引いていった。
「はぁっ……はっ……」
 荒く息を吐き出しながら、ゆっくりと手を離す。指先には血と生理的な涙とが滴っていた。
 呼吸を整えるうちに、ふと気付いた。右目が以前の光を取り戻している。先程の名残か、まだ少し蠢くような感触があるが、ただそれだけだ。
「……」
 骸が右手を空に差し出し右目に意識を集中すれば、右目は応えるように羽音のような音をたてる。
「やはり……」
 右目に浮かぶ数字が六から一に変わり、骸の右手には三叉剣が出現していた。
 右目の能力が復活している。
(館の裏の丘…だったか)
 少し迷いながらも、骸は決心してベッドから下りた。ベッドサイドの机の上に佇むマリア像を手に取ると、静かに窓へ向かった。

















「犬、千種、凪」
 街を見渡せる丘の上、吹き上げる風が頬をさらい、あたたかな匂いを運ぶ清涼な地。その木々に囲まれた道の先のぽっかりと開けた場所に、子供が両手を広げたくらいの墓石が立てられていた。名前は彫られていないが、きっとここだと骸は確信していた。
「少し遅れてしまいましたけど、これを……」
 彼らが欲したマリア像を、墓石の根元に置く。
「あぁ、そうだ」
 骸は三叉剣を出現させると、墓石をがりがりと彫りはじめた。硬い石の表面は少しずつしか削ることができず、腕に力を込めると身体の至る所がぎしぎしと軋んだ。それでも骸は一心に手を動かし続けた。まるでそれ自体が償いかのように。
 長い時間をかけて、しかし確実に刻み込んでいく。夢の中で見た過去と未来を思いながら、線と線とを組み合わせる。
 いつしか真上にあったはずの太陽が街のさらに先へと沈んで、丘から見える全てが紅く溶けていく頃。
「犬、千種、凪。僕の名前は骸。――六道骸ですよ」
 墓石には4人の名前が深く深く刻み込まれていた。じんわりと汗をにじませながら、骸が文字をひとつひとつなぞっていく。過去と未来を繋ぐ特別な名前。いや、魂を縛る名前だろうか。
「いつかまた会う時には、僕も共に……」
 心地良い疲れを全身に感じながら、骸は静かに目を閉じた。


――ザ……


「全く、心配させて……」
 墓石に身を寄せるようにして眠る骸を、細いながらも力強い腕が抱き上げる。骸の小さな身体は、見かけも細身だが、それでも信じられないくらいに軽かった。
「無理にでも食べさせないと駄目かなぁ。――ん?」
 墓石に何か刻まれているのを発見し、ジョットの動きが止まる。
「……お前は生きてるじゃないか。ここに、いるじゃないか……!」
 すうすうと安らかに眠る骸をぐっと抱き寄せる。どうしてこの子はこんなにも死に近付きたがるのだろうか。まだ自分はこの子の生きる場所になれないのだろうか。
(死なせてなんかやらないからな)
「俺は、お前と一緒に生きることを絶対に諦めない――」











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