01.
(あぁ、またか)
母にあたる女に首を絞められながら、どこか他人事のように感じている自分がいた。
(親に殺されるパターンは何度目でしたっけ……)
息苦しさを感じながらぼんやりと記憶を掘り起こしていく。
前世と、そのまた前世と、更にその前世と――
(時間の無駄ですね)
チラリと、天井の染みを見つめていた目を母だった女に向ける。自分と同じ濃紺の髪を振り乱し、目を血走らせ口から泡状の唾液を垂れ流しながら両手に力を込める女。鬼のような形相、という言葉がぴったり当て嵌まるだろう。元はそれなりに美人だったはずだが、人はこうも激しく変貌するものらしい。
「……っ!!」
目が合った。
(何をそんなに怯える必要があるのでしょう。この身体はあなたの肉でできているのに)
「見ないでっ! その目で見ないでぇぇぇぇ!!」
突然女が叫び、息子の目から逃れるように自分の顔を隠した。今の今まで息子の首を絞めていた、その手で。
「けほっ……ぐ……ごほっ!!」
一気に肺に空気が入って来たせいで軽くむせた。当然だが、ひどく苦しかった。しかしだからどうということもない。生理的に苦しいだけ。ただ、それだけ。
(哀れな人だ。僕を産んでしまった者は皆、)
「――哀れですね」
ジャッ
湿った何かが擦れるような音がした。そして一拍置いて派手な水音が続く。ばしゃばしゃと音をたてて、女の首から噴出した液体が女の息子を赤く染めていく。息子の手には、複雑な模様の刻まれた黒い三つ又の剣が握られていた。
「――あぁ」
安心したような、解き放たれたような微笑みを浮かべて女の身体が後ろへと崩れ落ちた。何の感動も感慨もない。だからよくある時間が引き延ばされたような感覚に陥ることもなく、事実をあるがままに受け止めるしかなかった。
これでこの女は死んだのだ。
「もっと早くにこうするべきでしたか?」
血溜まりの中心に転がる女に冷めた目で尋ねる。その血は自身にも流れているはずのものだ。
一度も母と呼んだことなどなかった。あちらも自分を名前で呼んだことなどなかった。目を合わせようとすらしなかった。この女と自分は、無意味で無関係な親子。血のつながりだけの親子だった。
「あなたの息子は死んでいた。僕はその骸。ただの六道骸ですよ」
ただ、それだけのこと。
「はいよ」
「ありがとうございます」
シワだらけの手から林檎の入った紙袋といくつかのお釣りを受け取り、礼を言う。子供特有の無邪気な笑みとともに。
もちろんそんなものは演技に過ぎない。長い時を生きるうちに自然と身についた処世術だ。こうするだけでたいていの大人は友好的になり、こちらの言葉を疑わなくなった。常に右目を眼帯で隠していても、ケガの痕がひどいので隠しているのだと言ったらそれ以降右目のことには触れてこなくなった。便利なものだ。
「いつもお使い偉いねぇ。お母さんはまだ病気が治らないのかい?」
隣で野菜を物色していたおばさんが骸に声をかけてきた。名前こそ知らないし知りたいとも思わないものの、知り合いと言えるほどよく会う人物だ。
「ええ、まだベッドから起き上がれないんです。お医者さまは近いうちに良くなるとおっしゃっていたのですが……」
実に馬鹿馬鹿しい会話だと内心で思いつつ、上っ面の演技を続ける。そんなこととは知らずに、おばさんはかわいそうにねぇ、と持っていたオレンジをくれた。
「ありがとうございます! それじゃあ僕、母さんに早く食べさせてあげたいので、これで失礼しますね」
笑みをいっそう深めて礼をし、家の方へ小走りで急ぐ。その際振り返ってもう一度ありがとう、と手を振ってみた。少しやりすぎかとも思ったが、おばさんは親戚の子供でも見るかのような優しげな微笑みで見送ってくれたので、怪しまれなかったようだ。
「ホント、いい子だねぇ」
そんな声がかすかに聞こえて苦笑が漏れた。
テーブルに林檎とオレンジを置き、一息つく。ふと視界にイスの足が入って暗い笑みを浮かべた。
「いい子、ですか」
イスの足にこびりついた、何かが飛び散ったような黒い固まりを爪で削り落とす。見える範囲で拭き取ったはずだが、見逃していたらしい。
(僕がいい子なら、たいていの子供は仏か何かでしょうかね)
クフフ、と口を三日月にゆがめて笑うその顔は、その実全く感情が読めなかった。
母にあたる女を手に掛けてから1ヶ月が経つ。前世の記憶を持ち、他とは一線を画する骸であっても、所詮は子供の身体であることに変わりはない。正確な年齢はわからないが、この身体はまだ10歳そこらだ。細身の女であっても、大の大人の死体を一人で運び出せるほどの力はなかったのだ。
(いい加減限界ですね……)
部屋の片隅を見て目を細める。そこには赤の滲んだ大きな麻袋が無造作に転がっていた。うっすらと人の形の起伏が見てとれる。湿気の少ない土地とは言え、半袖で過ごせるような気温だ。1ヶ月も放置すれば、さすがに臭う。骸にとっては慣れた臭いだったので臭いは臭いとしか感じなかったが、決して好ましいわけでもない。隣家に不審がられても面倒だ。
(そろそろ動きますか)
この家に残された金もあと僅か。家ごと棄てて、どこか足のつかぬ地へ移動すべきだろう。
(何にせよ、金は要りますね)
その夜、骸は街外れの路地裏へと向かった。眼帯はしない。さらけ出した紅い目は、淡い月の光を反射して爛々と輝いていた。
前々から聞いていた噂話の中に、深夜に現れる人買いの話があった。食いぶちを減らすために売られた子供や捨てられた子供を馬車でどこかへ連れていき、貴族たちに売るのだという。現れる場所や正確な時間まで噂に含まれていた。つまり、この街においてこの人買いは公認されているのだ。ごく当たり前の事実として存在し、疑問を持つこともなく街の住人は利用しているのだろう。
実際骸も何度か売られかけたことがあった。
今よりもっと小さな頃、深夜に起こされ連れて来られたのがこの場所だった。その時の記憶は今でもはっきりと思い出せる。
『これで、やっと……』
そう母親が安堵のため息とともに呟いたのが聞こえた時、骸の胸はかすかにざわついた。
これでやっと安心できる?
これでやっと幸せになれる?
僕を捨てただけでこの女は何かを手に入れるというのだろうか。僕が手に入れることのない何かを。僕をこの最も醜い世界に産み落とした女が!
「そんなこと許しませんよ」
月光を反射する紅い目を光らせて、その時この生で初めて右目の能力を使ったのだった。
「皮肉なものですね」
今度は自分からこの馬車に乗るなんて、とガラガラと激しく揺れる中で呟いた。馬車の中には骸一人しかいないが、子供が 10人は楽に座れるほどの広さがあった。馬車の外装も豪奢とは言えないが、ごく普通の馬車くらいには整えられていた。
(てっきり首輪の1つくらいはめられるかと思いましたが、意外と好待遇ですね。もっとも、変態貴族に売る商品に傷を付けたくないというだけでしょうが)
「クフフ……」
(僕はいくらで売られるんでしょうかねぇ)
自然と皮肉な笑みがこぼれた。実にくだらない世の中だ。
今の骸に目的などなかった。金を得ても何かすべきことがあるわけでもなく、ただ生きるのに必要だから得ようとしているだけ。生きてすべきこともしたいこともない。生きる必要があるのかどうかも疑わしいくらい。生きるために生きる。なんと無意味な生だろうか。
「生まれたくなどなかったのに……」
「ここで待ってろ」
御者に連れられて案内されたのは、とある館の地下室だった。ほとんど地下牢と言っていいが、特別汚いわけでもなく、着替えまで用意されていた。
(商品は着飾った方が高く売れるということですかね。――おや?)
服は4人分あった。
「お前達は着ないのですか?」
部屋の角に目を向ける。骸と同じくらいか少し年下くらいの少年2人と、少年たちの後ろに隠れるようにもう1人がうずくまっていた。ボロをまとって身を寄せ合うように震えて、膝を抱えたその隙間に顔をねじ込んでこちらを見ようともしない。
(売られたというよりは捨てられた、ですか)
小さく溜息をつく。同情も憐れみもわかないが、釈然としない思いはあった。彼らを捨てることで、彼らが失ったものを得た者がいるのだ。本来彼らが得るはずだったものを代わりに得たものが。
「ここは少し寒い。今着なくてもどうせ後で着替えさせられるんです。それならば自分たちの意思で着た方がいいでしょう? 着ないよりはマシですから、着ておきなさい」
質の良い服に着替えながら、3人分の服を震える少年たちに差し出す。
ピクリと少年たちの肩が震えた。ゆっくりと窺うように顔を上げる。
暗がりでハッキリとは見えないが、元は快活だったろう金髪の少年と、本が似合いそうな黒髪の眼鏡をかけた少年だ。そしてもうひとり、少年たちの後ろにうずくまっていた黒髪の子供が顔を上げた。
「……!」
少女だった。右の瞼が落ち窪んでいて、おそらく二度と開かれることはないのだろう。片方しかない目に怯えをいっぱいにして、静かに見つめてくる。
3人の視線は骸の右目に集中していた。天井近くにある窓から射す月光が、骸の右目を照らしていたのだ。その紅い目は、異端の証。何度生まれ変わってもついてくる魔性の瞳。
「……悪いことは言いませんよ。着ておきなさい」
月明かりから逃れるように顔を背けながら諭す。
おずおずと金髪の少年が手を差し出した。視線を骸の右目から外さないままに服を受け取る。しかし服を手に持ったまま動かなかった。
「そんなにこの目が珍しいですか」
奇異の視線を受けるのはよくあることだ。たいていそのあとは恐怖と罵声が浴びせられるわけだが。
知らず溜息が出た。脱いだ服のポケットからいつもの眼帯を取り出す。
「……!?」
いつの間に接近していたのか、黒髪の少女が眼帯を付けようとした骸の手を掴んでいた。
「あかくてきれいな目。あったかい目。……やさしい目」
ひとつしかない濃い色の目で真っ直ぐに見つめてくる。
「どうしてかくすの……?」
今度は骸が動けなくなる番だった。
「次の商品はこの少年! 世にも珍しい紅眼に呪いの文字! 生ける悪魔の子をぜひとも貴方様のコレクションにお加え下さい!!」
(笑える売り文句ですねぇ)
骸は自分が競売にかけられるのをどこか他人事のように聞いていた。舞台の前に群がる仮面で素顔を隠した貴族のどよめきも、方々から上がる男女入り交じった競りの声も、喜々として競りを盛り上げる主催者のダミ声も、骸にとってはどうでも良かった。
ちらりと自分の立つ舞台の右端、自分たちの順番を待つ――いや、今何が行われているのかも理解していない3人の子供たちを見る。この場の異様な雰囲気に圧されたか単純な恐怖からか、目を見開いて音が聞こえそうなほど震えていた。
(大丈夫。大丈夫ですよ)
縋るような視線を受けて、安心させるように頷いて見せる。
そんなことをしてるうちに、どうやら骸の競りは終わったらしい。舞台袖に待機していた男に奥へ戻るよう促された。
「それでは次の商品に参ります!」
入れ代わりに少女が舞台に誘導される。今にも泣き出しそうなその様子に、自分でもどうしてそんなことをしようと思ったのかはわからないがその小さな頭を撫でてやった。端にいる少年2人にも同じことをしてやりながら、我ながら酔狂なものだと苦笑した。
無事に皆買い手がついたらしい。嬉しくもなんともないが、とにかく競売は終了し、4人揃って地下室に戻された。 おそらく、買い手の貴族が主催者に支払いをしたのちに引き渡されるのだろう。今頃主催者の机には自分たちの命の価値だけ札束が積まれているのかもしれない。いや、場合によっては硬貨かもしれないが。
「……フ」
自嘲の笑みを浮かべると、不思議そうに見上げる子供たちと目が合った。
「さぁ、これからのことを話さないといけません」
すっかり懐いてしまった3人を見回す。今の彼らには先のことなど考える余裕もないだろうが、珍しく自分がここまで面倒を見てしまったのだから、これくらいはすべきだろう。
「いいですか、良く聞きなさい」
全く、酔狂なことだ。
「出ろ」
御者の男が地下室の扉を開けた。
「お客さまが首を長ぁくして待ってるからな」
その意味を知っているのだろう。ひどくカンに障る言い方だった。
「何を見ても動じずに。言われた通りに動きなさい」
戸惑いの表情を浮かべる3人に囁いて、骸が先導して外に出る。
「4人ともだ。さっさと出……ぇっ――」
言葉を不自然にとぎらせて男の体が傾ぐ。男の首から三叉の剣を引き抜くと、真横に血が噴き出した。
「運んで下さってありがとうございました」
血溜まりを広げていく男に軽く礼をし、その手から鍵束を取る。そのうちの一つ、この館に来る時に裏口の扉に差していた鍵を取り外し、地下室の中に放った。
「選ぶのはお前たちです。意思を強く持ちなさい」
それだけ言うと、骸はひとり彼らを置いて地上への階段を駆け登った。
「まっ、待ってくれ!」
「待てませんよ。長く生きていたかったら、僕をあまり苛立たせないことですね」
この館の主がこってりとのった脂を汗とともに流す姿を冷めた目で見つめ、三叉の剣をまた少し押し付ける。ぷつりと首の皮が裂ける音がした。
男はひぃひぃと荒い息をこぼしながら必死で上着のポケットから鍵を取り出した。
「ここ、これっをっ!」
指に鍵をギリギリひっかけて骸に差し出す。チャリチャリと金属のこすれ合う澄んだ音がこの場にはひどく不釣り合いだった。
「……この金庫、鍵が2つ必要でしょう?」
にこりと笑って、三叉剣を閃かせる。
「ひっあぁぁあぎぁぐっうぅあ!!!」
ひどく耳障りな声を上げた男の左手は、骸の剣によって床に縫い止められていた。
「殺してから探してもいいんですが、せっかく戴いた服をこれ以上汚したくないんですよ」
「ひっ……はぁ、わっ、わかった! わかったがらぁっ」
右手で必死にズボンのポケットをまさぐり、小さな鍵を差し出した。
「全く面倒な――!?」
バタンっ
鍵を受け取ったその時、背後のドアが勢いよく開かれた。
「おい! 一体何が――!?」
入って来たのは若い男だった。
幼い顔立ちにハニーブラウンのふわふわした髪、どんぐりのような大きな目が印象的な少年――いや、青年だ。その小柄な体を貴族とはまた違う黒い礼服で統一していたが、童顔のせいか服に着られているように見える。そして一際目を引く武骨なグローブ。保温のためと言い切るにはいささか金属を使い過ぎている。
「たっ! 助げでっ」
最後の好機とばかりに主催者の男は重い身体を引きずり手をのばす。左手は地面とつながっているために逃げることはできないが。
「はぁ……」
骸は溜め息をつきながら振り返りもせず剣を真横に凪いだ。
「でぇぁ――?」
変な声を残し、男の太い首が飛ぶ。丸々太ったそれは、ボールのようにコロコロと転がって青年の足下で止まった。
「な、何をするんだ!?」
「あなたこそ、何ですか?」
3人の子供たちの買い手であった貴族は、すぐそこで物言わぬ屍となっている。
他の客たちは既に屋敷にいないはずなので、残るは骸の買い手だけだ。
(こいつが僕を買った貴族? しかし貴族には見えない。それに…)
身のこなしでわかる。ただ者ではないはずだ。戸惑いの表情を浮かべながら、その男はこちらを見つめていた。一見何の構えも取っていないように見えるが、隙はない。
「……」
「……」
互いに一歩も動かぬまま、相手を見透かすように見つめ合う。
「ボスっ!」
(新手? それに、ボス……だと?)
開いたままの扉から新たな人物が駆け込んで来た。灰色がかった銀色の髪の、やはり若い男だ。服装はグローブの男と似ている。こちらもただ者ではなさそうだ。
(――引き時か)
骸の周囲を霧が覆う。目的は達した。長居は無用だ。
「Arrivederci」
「なっ、待てよ!」
慌ててグローブの男は霧の中に腕を突っ込んだが、虚しく空を切った。
霧が晴れると、机に積んであった札束も金庫の中身もキレイさっぱりとなくなっていた。
開け放たれた窓から来る風が、血の臭いをさらっていった。
「霧、か……」
グローブの青年は、何かを確信したような表情で目を閉じた。瞼の裏に浮かぶのは綺麗な紅。
「また、な」
(あの男……何かの組織のトップか?)
館の裏の森を走りながら、グローブの男のことを考える。
(あの目)
髪より少し濃いブラウンの、澄んだ目だった。全てを見透かすような綺麗な目。少なくとも、汚れきったあの場には相応しくなかったように思う。
(僕を買ったのはなぜだ?)
あの場にいること自体似合わないのに、よりにもよって自分を買うとは。何か目的があるのだろうか。
(……まあいいでしょう。僕はたやすく利用されてやるほど優しくはない)
少し開けた場所に出ると、太い木の根本に腰を下ろしていた3人の子供がパッと立ち上がった。
(とにかく考えるのは後だ)
「よくここまでたどり着きましたね」
骸は本心からそう言った。死体が転がる中を、彼らは3人だけで走り抜けて来たのだ。それだけでも賞賛に値する。
「さぁ、これはお前達が得るべきものです」
屋敷の主から奪って来た札束を差し出す。これは机の上に積んであった分であり、彼らと引き換えにあの男が得るはずだったもの。正しく彼らが得るべき金だった。子供3人分の価値として安いのか高いのかはわからないが、それなりの額がある。うまく使えば2・3年は暮らせるだろう。
黒髪の少年がおずおずと受け取るが、どうしていいのかわからないらしく、骸と札束を交互に見て瞬きを繰り返した。
「お前達とはここでお別れです」
骸がそう言った瞬間、弾かれたように3人の視線が骸に集まった。
「僕はお前達とともにはいられない。これからはお前達の自由です」
自由、と彼らが呟く。
「そう。僕は人を縛ることしかできない。だからお前達は自分達だけで生きなさい」
3人は嫌々をするように首を振り、骸の服の端を掴んだ。
骸は3人の頭を順番に撫で、優しく言い募る。
「よく聞きなさい。子供だけで生きるのに、この世は厳し過ぎる。だから3人で考えなさい。どうすれば生き残れるか、苦しまずに済むか、幸せを掴めるのかを」
3人の手を握る。同じ子供体温のはずだが、3人の手はとても温かかった。3人からすれば、骸の手は冷たいのだろう。
「お前達には勇気がある。ここまで自分達の力で来れたでしょう?」
霧が再び骸の姿を隠していく。あ、と掠れた声が3人から漏れた。
「大丈夫。生きていればまた会うこともありますよ」
3人は霧の中で必死に手をのばすが、骸をとらえることはできなかった。
気配が遠のいていくのを肌で感じて、イヤだ、と小さく呟く。嫌。離れたくない。そばにいたい。それはいつしか叫びになったが、湿り気を帯びた空気に吸い込まれていくだけだった。
自分たちの手すら隠していた霧が晴れても、3人は茫然としたまま動けなかった。
「……行こう」
そんな中、黒髪の少年が少女の手を取った。それを見た金髪の少年が頷き、少女の反対側の手を取った。
「生きていれば、きっとまた会えるよ」
あの人がそう言ったんだから絶対だ、と。
「だから生きよう」
2人の少年の間で、少女もまた力強く頷いた。
「僕は何をしているんでしょうね……」
少し離れた樹の上から、手を取り走り出す3人を見下ろし呟いた。
ここまで深入りするつもりはなかったのに。なぜか見捨てることができなかった。
前世の縁だろうか。
(――もしくは来世の?)
彼らが遠くの街の明かりを目指して走っていくのを、骸はいつまでも見つめていた。
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