飲み下す毒、歓喜する蛇





「…う……」
「…ああ、目が覚めましたか。綱吉くん」
「………むくろ…?」
 視界が眩む。瞼が異様に重く感じた。頭の奥がズキズキと痛むようでもあった。クラクラする。
 額に手を置き、痛みの緩和を待った。そんな中で、落ち着いた声が聞こえた。
 六道骸だ。
「はい」
 カツ。静寂の中で響く靴の音。ゆっくりと見上げると無邪気な微笑を浮かべた彼が居た。声だけで誰か言い当てられた骸はとても嬉しそうだった。
 ゾッとする。
「……何、した…?」
「何のことですか?」
 周りには覚えの無い装飾がされた調度品。知らない屋敷の一室だとすぐに分かった。彼の所有のものだとも検討が付く。
「…現状について、訊いてる…」
「原因は僕だと?」
 こく。簡単に頷いた。
 途端に骸の表情がす、と無くなる。
「君もこの世界に馴染みましたねぇ…。昔の君なら誘拐されたら慌てふためいていたでしょうに」
 近くに位置していた椅子を手繰り寄せて深く腰をかけながら、骸。
「いつの話だ…」
「…………」
 骸は足を組んだ上に頬杖をして顎を突き出した。険悪な綱吉の態度に彼は気を悪くしたらしい。薄いオッドアイに睨まれた。
「…ボンゴレ十代目はいい教育を受けられたようだ。 誘拐されたらまず冷静に状況把握。出来るならば時間を確認し、 どれくらい離れた場所に移動したか予想を立てる。全くもって基本ですねぇ」
「…!」
 周りを見渡してから己の手首辺りを確認する素振りを見せる綱吉に、骸が冷静に言い放った。
 綱吉がバッと顔を上げて彼を見つめた。
「…残念ながら時計は外させていただきました。 君はいつも時間に追われているでしょう? 僕なりの気遣いです」
「……骸…」
 ギリ。奥歯を噛んだ。
「何が気遣いだ…。 俺を皆のところに帰せっ!!」
「……命令、ですか」
 ゆらりと彼が腰を上げた。
「!?」
 唐突に骸の姿が視認できなくなった。驚愕と同時に衝撃が身体を駆ける。
 ガン! 頭を床に激突させた。
「かはっ…!?」
 目の前に六道骸が居た。ギリギリと首を締め上げられる。容赦がない。目には怒りが炎上していた。
「知っていますか、綱吉くん。 命令するのは自分に権力があると思っている人間だけです。 それなのに君は随分命令し慣れているように見えますね? ボンゴレ十代目だからですか」
「ぐっ、ぁっ…」
「殺しますよ?」
「はぁっ!!」
 トドメとばかりに圧し掛かられて言い様のない恐怖が背中を走った。咄嗟に腰を捻らせて骸を蹴飛ばした。 彼は後ろへと飛んで綱吉の足を寸前のところで回避する。
「ゲホッ、か! っはぁ…!」
 距離が取れ、呼吸を再開できた。瞬間的に空気を求めて肺が跳ね上がる。肋骨が軋み、痛みで呻いた。
「…そんなに帰りたいですか」
「…はっ、はぁっ…ふっう…!」
 苦しむ綱吉を冷静に一瞥し、骸は興が殺がれたとばかりに乱雑に椅子に腰掛けなおした。
 落ち着き始めた綱吉は乱れた呼吸による声の中、彼の言葉を聞いてこくこくと強く頷く。
「……なら、ゲームをしませんか?」
「ゲー、ム…?」
 けほ。喉を擦りながら問い返した。にっこりと笑顔を返される。いつもの作った笑顔だ。
「…なにするんだ」
「簡単なゲームですよ、君もやったことあるんじゃないですか?」
「!」
 す、と差し出されたのはリボルバー式の黒光りする拳銃だった。薄暗い照明の光を受けて妖艶な雰囲気を放つ。
「装弾数は六発。その中に一つだけアタリがあります」
「……命がけな訳…?」
 こくり。骸はニヤリと暗い意味を孕んだ艶笑を浮かべつつ、装填する。恐怖と嫌悪を感じた。
「僕が死んだら千種たちに君を帰すように言ってありますのでご安心ください」
「……俺が死んだ場合は?」
「聴きたいですか?」
「………いや、いいよ」
 答えは聴かなくても分かった気がした。目を閉じて首を左右に振る。
 骸の視線は優しかった。答えは、そこに在る。
「…どっちからするの」
「…………そうですね、決めさせてあげます」
 先攻後攻を骸は自分に決めさせる気だ。ここで綱吉は彼の狙いを悟った。
「…じゃあ…先攻」
「どうぞ」
 パシ。投げ飛ばされた拳銃を受け取る。
 拳銃を握り締めて銃口をこめかみに付ける。引き金に指をかけて、引いた。
 カシ…ン。渇いた音が響く。空砲だ。
「……お見事」
 骸は目を細めて嬉しそうに笑った。喋らない綱吉からテーブルの上を滑らせて、拳銃を受け取る。
 ゆったりとした動作で彼も綱吉と同じようにこめかみに銃口を突きつけ、指を引こうとした瞬間─…
「……どうしました、綱吉くん」
「…ッ…!」
 綱吉が、止めに入った。
 撃鉄と引き金部を握り締め、ダブルアクションを食い止める。
 骸は綱吉の行動を受けて、歓喜にも似た情念を瞳に秘め、微笑する。
 そんな彼の態度に、綱吉は哀しそうに顔を歪めて俯いた。
「どうして…お前……やることが、極端なの…」
「…なにがです?」
「……俺に、言わせるの…」
 苦しかった。息が苦しい。胸が痛い。生きてることが、辛かった。
「俺を攫えたならそのまま逃げればいいのに…お前は、なんで…俺を試すようなこと…!!」
「…知りたかったんですよ」
「…ッ…!」
 細く開かれたオッドアイにはとても温かい感情で溢れていた。いとおしいと暗に言われているようで、苦しかった。
「君が、結局最後になにを選ぶのか…。 ファミリーの連中か、僕か」
「……酷いよ…」
「ええ、最悪ですね。 しかし君は最高だ」
「─…!」
 にこ。昔、一度見たきりだった彼の本当の笑顔。目にした瞬間から感情が波立った。
「……好きだよ、骸…」
「ええ、僕もです」
 知っているくせに、苦しい思いをさせてくる彼が憎かった。
「……でも…」
「いいんですよ、綱吉くん」
「…?」
 言葉を濁す綱吉に、優しい声で骸が話しかけた。
「…いいんですよ。僕は君の気持ちが知れただけで、充分です」
「─…!」
 ズキ、ン。彼の笑顔を見た途端に身体が裂かれるような痛みが沸き起こる。どくどく。急激に運動する心臓が痛い。
「…酷い…骸…お前、酷い……最低…最低だ…っ!」
「ええ、それでも君は愛してくれるでしょう?」
「……ぅっ…」
 涙が零れた。
 抱きしめられて、温かさが憎かった。振り払いたい衝動に駆られるが、恋情が勝った。身を委ねて抱きしめ返す。
「……最、低だ…」
「大好きですよ、愛してる。綱吉くん…」
「…ぁっ…あぁぁああ…!!」
 とめどなく涙が溢れてくる。残酷だと思った。
 彼はどうしようもない痛みを身に刻み付けてきた。ファミリーの支配者である自分に、ファミリーの邪魔者を生かす選択をさせた。 それは、どうしようもない、罰だった。
「…嫌いだ…大っ、嫌いだ…お前な、んかっ!!」
「嘘はいけませんよ、綱吉くん」
 甲高い哄笑だけが、耳に届いた。




























『淡色イドラ』の群青 優様から相互記念にいただいた6927でした!
リクは6927+ロシアンルーレット+ヤンデレでお願いしました。
絶妙なヤンデレ具合と丁寧な文章はさすが群青様!
今後ともよろしくお願いします〜!


2009.4.12